宛先架空の手紙

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宛先架空の手紙

 そんなことで僕は手紙を書いていた。…さすがにいきなり悩み事をつらつらと書くのは相手が面食らうだろうか―あっ、いや待って…これはそもそも在りもしない所に居もしない人に向けて書くんだからそんな気遣いは不要か。…ううん、でもどうせ書くならちゃんと…。などとあれこれ考えながら、僕は手紙を書き終えた。 こんにちは。  いきなりのお手紙でごめんなさい。僕の名前は相田広介です。如何お過ごしでしょうか?こちらは随分と天気も良く暖かいです。生憎僕は予定も特に無く、休みの日は家でぼうっとしてる所存です(笑)。  最近、映画を観るのにはまって趣味になりつつあります。趣味は何ですか?映画はお好きですか?僕の方は映画は映画でも一昔前の80年代90年代の作品を観返してばかりです。これが意外と面白いんです。  お返事お待ちしてます。 相田広介 ―こんなこと書いて何してるんだろ。そうは思いつつ書き上げた便箋を折りたたみ封筒に入れ、封筒の表面に適当な郵便番号と適当な住所を書き…番地までこだわって書いた。そして近所のポストへ投函した。  あっ、宛名忘れた、書くの。そう思ったのはもうすでにポストに封筒を入れた後だった。時既に遅しだった。…まあいいや、かりそめの気晴らしだし。何だか文字を書くだけでも気持ちが少しスッとしたような気がしたな。
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