しおりのようなきみ

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しおりのようなきみ

 居間の本棚から、一冊を取り出す。本を開き、ページをパラパラめくると、 あっ!小人がはさまっていた。冬眠していたりすのように目を閉じ、ペランペランの姿で。  小人が、ふいにパチッと目を開けた。 ―わっ!びっくりした。 そして、体の水気をはらいのける犬のように、ぷるるるん!と全身を振り、平面から立体、二次元から三次元になって、ぼくをじっと見つめると、にっこり笑った。  ぼくは、夢の中にいて現実とは思えなくて、ただ、空想に包まれていると想像したかったのだけど、小人は、 「とても心地よい安眠場所でした。この本を読みながら、おだやかな眠りに落ちてゆけたので、とてもいい本です」 ではまた、と手のひらを上げたとたん、ぼわわん!と白いもやが広がり、小人はけむを巻いて消えて行ってしまった…。  小人がはさまっていた本は、ぼくが初めて書いた物語本だった。小人が睡眠用でもほめてくれたので、おやすみ前の、幼い子に読む絵本みたいでうれしかった。小さな欠片だった自信が、ぽこぽこと湧いてきた。 最近、心のへこみが穴凹になり、気力を失って埋もれそうだったのだ。  次の作品へとはずむきっかけが、ぼくの本にはさまった、しおりの小人だったことが、新しい物語につながってゆく。  凹んだ時は、忘れていた本のページを開くと、しおりのような小人が、眠っているかも知れない。  実は、きみを勇気づけるために。
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