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懐かれているなぁ、とは思っていた。昔から、隣に住む一回り年の離れた女の子に。
お互い一人っ子だったから、兄と妹のような関係なのだと思っていたが、妹を持つ友人の話を聞くと、少し違うのかもしれない、とも感じていた。世間で妹とは、兄にとって生意気で遠慮のないものらしかったが、小鞠は、至にとって唯々純粋に可愛らしく、いじらしい存在だった。実家を離れる折、隣家へ挨拶に行った時など、今にも泣き出しそうな小鞠の顔を見て、至の方まで目が潤んできてしまったくらいだった。
勤める高校に小鞠が入学してからは、至は彼女に意識して素っ気なく、厳しく接した。もちろん、他の生徒と平等に扱おうと贔屓しない為だったが、自分が小鞠に対してかなり甘いと自覚していた故に、かえって厳しくし過ぎてしまった面はあった。
だから、最近は大分嫌われてしまったなぁという気はしていた。しかし、根っから厭われているのではなく、思春期の女子が「親父がウザい」という、そんな感じなのだと思っていたのだ。
小鞠が至に手紙を見られたがらなかったのも、きっと自分への文句や悪口が満載の内容だからだと思い込んでいた。それが、意外や意外…。
「好きって…」
至は呟いてしまってから、車内の両脇を見回した。幸い手摺を握る隣の客は、右も左もスマートフォンに夢中で、至の独り言など微塵も耳に入っていない様子だった。
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