失恋紙飛行機

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 問い詰められる――こともなく、スズメは自ら白状する。猫事件でひとめぼれしてしまったことを。  猫事件とはミサゴが命名した自身に振りかかった災難のことだ。  公園で木から降りられなくなった猫を助けようとして自分が落ちて、猫はミサゴが落ちたあと涼しげな顔でひょいと降りてきたという話だった。  ノゴマはミサゴの「さっきまでにゃーにゃー泣いていたのは本当に何だったのかと」と笑う姿を思い出す。 「確かに失敗しちゃったけど、私はなんだか心を打たれちゃって。何かのために自分を犠牲に出来るなんて凄いよ」  ノゴマの頭の中ではミサゴが「いやいや、ただの自滅だよ。自滅」と笑っている。 「何処の病院に行ったのか見当は付いていたけど、本当にそうなのかわからなくて、半ば諦めていたら」 「俺の紙飛行機が飛んできた、と」  スズメは頷く。 「こんな些細なきっかけで、こんなに動けるなんてね。それで、まさかあの人に会えるなんて……」  そう声を弾ませたあと、澱んだ表情で「だけど」と俯く。 「もう会えないよ」 「何で、いきなりそうなる?」 「だって、会う口実がないから」  落ち込むスズメに、ノゴマは少し鬱陶しさを感じる。 「俺、明日も明後日も紙飛行機を飛ばすから」  なのに、ノゴマは自分でらしくないと思いつつ、そう声を掛けた。 「会いたければ、それを拾ってここに来ればいいじゃん」  ノゴマの言葉にスズメは「いいの?」と顔を上げる。 「病院暮らしってすごい暇でさ。ちょっと変わったことがあると、滅茶苦茶面白く感じるんだよね」  ノゴマはニヤリと笑う。 「招待してやるから、何か面白いことしてよ」 「お、面白いことって……」  スズメは少し考えたあと、声を極限まで低くして「あ、あー」と発声練習をする。 「ハロー、ユーチュー」 「似てない」  あっさりとノゴマから一蹴された。 「でも、似てないってことは誰かはわかったってことだよね?」 「じゃあさ、紙飛行機がどこまで行ったのか写真撮ってきてよ。携帯持ってるだろ?」  スズメは食い下がったのを無視されたが、別の提案をされる。 「それでいいなら、いいけど」  よく考えずに了承した。さっき披露したモノマネを否定されて、彼女はノゴマに従う以外の道がない。  珍しく屈託のない笑顔で「やった……!」と嬉しそうなノゴマに不思議に思うけど、スズメは特に深く考えようとはしなかった。  それからスズメは五日間ノゴマが飛ばした紙飛行機を持って病院にやってきた。彼のベッドの近くの椅子に座りながら、ミサゴを観察する。観察といっても、ミサゴは病室から離れる頻度が多くて僅かな間だけだが。
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