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それでも、スズメは幸せだった。思っていた通り優しくて面倒見がいいとこも知れた。度々話し掛けられて、何も話せなかったけど自己嫌悪より幸福感が上回っていた。
今日もまた、スズメは紙飛行機を追いかけている。
ノゴマの紙飛行機はいつも風に乗って自由気ままに空を飛び回ったあと、ふとした瞬間に満足げにふわっと着地する。
着地した場所がほぼ誰かの家の敷地内でスズメは苦労するけれど、幸いなことにその誰かは今のところいい人ばかりだった。
スズメは携帯で紙飛行機が着地している姿と場所を撮る。それを病院に持っていき、ノゴマに見せる。写真を見ながらスズメの話を聞く彼は本当に嬉しそうな顔をした。
病院に通いながら、少しずつスズメはノゴマのことを知ることになる。
今、ノゴマが足の親指を折ったこと。実は身体がそう強い方ではないこと。実は学校が同じだということ。それらを初めて知って、スズメは心底驚いた。
それにしても、今日の紙飛行機はいつもより飛ぶ距離が長い。
何処まで飛ぶのかスズメはわくわくしながら追いかけていると、他人とぶつかってしまった。
その人は白いスーツに赤い薔薇柄のシャツを着て、グラサンを掛けていて、パンチパーマに紙飛行機が。
パンチパーマとは当初、流行最先端の髪型として有名だったが、そのいかつい見た目からある筋の業界にもブームが起こった髪型だ。スズメの顔が青くなった。
「――というわけで、やっぱり紙飛行機を病院の敷地外に飛ばすのは良くないと思うの」
スズメはそう言って、パンチパーマとぶつかった紙飛行機をノゴマに渡す。
幸い、その人はスズメが思うような人ではなかったようで、兎に角謝って謝りまくったら許してもらえた。
「そもそも、私も紙飛行機が刺さってここに来たよね」
スズメは最初に見つけた紙飛行機のことを思い出す。スズメにとって濃い日々だが、あれからまだ一週間も経っていない。
ノゴマはスズメの話を聞いて、とても険しい顔をしていた。視線は受け取った紙飛行機に向けていて、ずっと無言だ。
スズメは話すのをやめて、ミサゴをじっと見つめる。そういえば、ここが病院だったことを思い出して何か良くないことが起きたのではないかと考え始めた。
「ミサゴ、退院するよ」
しばらくして、重い口を開いたノゴマの言葉はとてもおめでたいことだった。
「ほんとに? よかった……!」
スズメは素直にそう喜ぶ。
「――本当にいいのか? ここに来ても会えなくなるけど」
ただ、ノゴマの言葉に純真だったスズメの心に靄が出来た。
「そ、それは、困る……」
スズメは俯く。さっきまでは素直に喜んでいたのに、胸が少し痛くなる。ミサゴが退院したら、ここに来る訳にはいかない。それに、この数日でミサゴと何か仲が深まったかというと全然だ。
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