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もしかすると、もう二度と会えないかもしれない。
「なあ、告白してみれば?」
ノゴマはずっと暗い顔で俯くスズメにそんな言葉を掛けた。
「む、無理だよ!」
スズメは声を裏返させて真っ赤な顔を上げる。
「でも、もう会えなくなるなら、やってみる価値あると思うんだけど」
ノゴマはさっきとは違う、見慣れたニヤニヤと笑う表情で話を続ける。
「それにな、俺の友達のタカシがさ、入院中にルリって子に告白したんだよ」
スズメは目を丸くする。ノゴマが友達の話をするのは珍しい。
「病室の皆でこう、口裏? っていうか上手く雰囲気を作ってさ。それで、ルリはなんか周りの雰囲気に流された感じでOKしたけど、今はそんなこと感じさせないくらい仲が良いぞ」
スズメは当然のことだが、タカシもルリも誰なのかわからない。ノゴマの話が本当なのか疑っている。
「場の雰囲気の力を借りれば、案外いけるんじゃないのか。俺、結構脈があると思うけど」
けれど、脈があると言われると、喜んでしまう。
「本当に?」
スズメが聞き返すと、ノゴマはうんうんと頷く。
「だって、お前が帰ったあと、ミサゴは俺にお前のこと聞きに来るんだよ。これってそれなりに興味はあるってことだろ?」
スズメはその話を初めて知った。
「可能性、なくはないのかな。やってみようかな」
思わず舞い上がり、そんなことを口走ってしまう。
ノゴマの言葉は本当だ。ノゴマはミサゴが何故、スズメのことを聞いてくるのかハッキリとわからないけど、それを早々に恋愛感情のようなものだと結論付けた。つまり、年下がタイプなのだろう、と。
「じゃあ、手紙書いて」
「えっ?」
「だって、お前、ミサゴとまともに話せないだろ? ちゃんと告白できないから、そういう手段を取るしかないだろ」
スズメの前向きな返事を聞いて、ノゴマは妙に張り切っている。
「あと、ちゃんと直接、手紙を渡せるか?」
話を素早く進めて、スズメを困惑させた。
「せっかくだから、ちゃんと渡したい」
でも、スズメに告白をやめるという考えはなかった。
こうして、二人はミサゴが退院するまでの三日間を告白作戦会議に費やした。
ミサゴが退院する前日、ノゴマは頭を悩ませていた。今、彼は病室ではなく、院内のコンビニの脇にある小さな患者用の読書スペースの片隅に座っている。
スズメを説得するときに場の雰囲気を作ったと言っていたが、あれは自分で作り上げたものじゃない。明日が本番だというのにノゴマは病室に根回しをしていなかった。
「ノゴマ? 珍しいね。図書コーナーにいるなんて」
そうあれこれ頭を悩ませていると、悩みの種の一部であるミサゴがやって来た。ギプスが取れた右腕を使って手を振っている。
「ミサゴ、退院おめでとう」
ノゴマは少し拗ねた表情でミサゴの退院を祝う。恐らく明日は忙しくなるだろうから、言えるうちに言っておこうと思った。
ミサゴは苦笑いで「ありがとう」と返して、ノゴマの隣に座った。
「時々、遊びに来るよ」
「そのときは多分、病室変わってる」
ノゴマはずっと病院暮らしをしている。時々、家に帰ったり学校に通ったりするけれど、圧倒的に病院にいる期間の方が長かった。
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