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今はもう見守るしかない。スズメが風船から手を離す。
作戦では何食わぬ顔でノゴマが風船を捕まえて手紙を見つけた振りをする。それでミサゴに渡して手紙を読ませるという段取りだ。
赤い風船はふわっと空に浮かんだ――ように見えたが、一瞬だけ重力に惹き付けられたような動きをした。
そのあと、風船はまた何事もなく浮かんできた。ノゴマは風船の紐を捕まえたが、紐の先には手紙がない。
慌ててまた外を見てみると、スズメが膝を突いていた。スズメの前には手紙がある。作戦は見事に失敗したようだ。
それに一瞬だけノゴマは安堵してしまった。
ミサゴに「ノゴマ?」と声を掛けられて我に返る。
「それ、何? いきなり」
「ぷ、プレゼントどうぞ」
ノゴマは咄嗟にそう誤魔化して風船をミサゴに渡す。ミサゴは「ど、どうもありがとう……」と戸惑いながら風船を受け取った。
ミサゴは風船を持ったまま他の患者に挨拶に行く。ノゴマは小さく息を吐いて窓の外を見ると、そこにスズメはいなかった。
「み、ミサゴさん!」
何処に行ったのかと思っていると、息を切らしたスズメが病室に入ってきて、顔を真っ赤にしてミサゴの前に立つ。
「私はあなたが好きです。読んでください」
そう差し出された手紙はかなり分厚くて、ハートのシールが辛うじてくっついている。
ミサゴは目を丸くしたあと、手紙を見つめる。震える手紙を受け取り中身を読み始めた。
一枚一枚、大切に読んでいく。その数は五十枚を越えていて、読み終えるのにかなり時間が掛かった。
「告白って凄く勇気がいるよね。僕のためにここまでしてくれてありがとう」
読み終えたあと、ミサゴはスズメにお礼を言う。その言葉にスズメは悟ったようだった。
「だけど、ごめんね。僕にはもう心に決めた人がいるんだ」
ミサゴは悲しそうな笑顔をして、スズメに手紙を突き返した。
ミサゴがいなくなった病室にずっといて、スズメはノゴマのベッドの近くで夕日を眺めている。
「それ、どうするの?」
ノゴマはスズメがずっと握り締めている手紙を指差す。
「俺にくれない? 紙飛行機を作る紙がもうないからさ」
せめてもの償いに、何か自分に出来ないことを考えた結果の言葉だが「嫌だよ」と一蹴された。
「飛ばして誰かに拾われたら読まれちゃう」
その言葉にノゴマが返す言葉は何もない。黙って俯くしかなかった。
「――でも、海外まで飛んでいくなら言語がわからないから良いかも」
そんなノゴマに対するフォローなのかスズメはぽつりとそう呟いた。
「国境を越える紙飛行機か」
いつものノゴマならそんな考えを笑っていただろう。
「俺、頑張ってみるよ」
だけど、今は違う。
スズメは力なく笑った。その笑顔は何処かぎこちない。
ノゴマはその笑顔をどう受け止めていいのかわからず胸がぎゅっと締め付けられた。
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