失恋紙飛行機

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 スズメはある病棟の前で赤い風船の紐を握り締めるように持っている。風船の紐の先端にはセロハンテープ一枚で手紙が貼られていた。  彼女はとある窓を見つめる。その窓は開けられていて、カーテンが風に揺られていた。  どうか自分の気持ちが届きますように。そう祈りながら彼女は風船から手を離した。  これはスズメの頭に紙飛行機が衝突したことから始まった。いや、衝突というより刺さったといった方が正しい。  彼女がぼんやりと帰宅していたときに、突風とともに刺さって来た。  紙飛行機が頭に刺さっていたことに彼女が気付くのにはかなりの時間が掛かった。  最初、彼女は安堵していたが、少ししてそれが独りでに飛んでくることはないことに気付く。  スズメはキョロキョロと何処からこれが飛んできたか探すが、見つからない。少し遠くに病院があるが、まさかそんな都合の良いことは……と思った。  彼女は大きく溜め息を吐いて、紙飛行機をくしゃくしゃに丸める。  ここら辺にゴミ箱が置いてある場所はないので、くしゃくしゃに丸めた紙は自分の家に持って帰るしかない。  ついてないな、と丸めた紙を見る。ふと、油性マジックペンで書かれた黒い文字が見えた。  慌てて紙飛行機だったものを開いてみると、やはりそこには文字が書かれていた。 『当たったなら悪かった』  ふてぶてしい、とスズメは思う。  でも、そのあとに書かれていた連絡先の病院名を見て、彼女は目を丸くした。くしゃくしゃにした紙を軽く伸ばして、もう一度病院名を見る。  スズメはにこにことした笑顔に変わり、すぐさま病院へ駆け出した。  スズメは病院に着くと、最初に見つけた看護師に笑顔で紙飛行機だった紙を渡した。  その看護師は男性で、紙を受け取ると「困ったな。何回目だろ、これ」と紙をまじまじと見ながら呟いた。
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