とある舞台会場(ぶたいかいじょう)で

2/10
前へ
/10ページ
次へ
 (えら)ばれたわたしたちにひとつずつ(あた)えられたその(しろ)(かみ)きれは、地球上(ちきゅうじょう)のどんなものにも()えがたいほど価値(かち)のあるものだと(おし)()まれていたので、どうして彼女(かのじょ)がそんなひどいことをするか、意味(いみ)がわからない。  わたしの中の(おも)いは()ずかしさから一気(いっき)(いか)りへと変化(へんか)する。  わたしは、(とお)()ぎた彼女(かのじょ)背中(せなか)()かっておそるおそる言葉(ことば)()げかけた。  ねえ、なんであなたは、そんなに大切(たいせつ)なものをくしゃくしゃにしてしまったの、と。  すると、その(おんな)()は、なみだをぬぐいながらこうわたしに(うった)えかける。  もうね、()めないの。この“感動的(かんどうてき)手紙(てがみ)”。  わたしは、なるほど、彼女(かのじょ)手紙(てがみ)()むときに感情移入(かんじょういにゅう)しすぎちゃって、(ふる)えるほどなみだを(なが)して、大切(たいせつ)なはずの“感動的(かんどうてき)手紙(てがみ)”を(にぎ)りしめてしまったんだ、と(おも)ったんだ。  けれども、すぐにわたしの予想(よそう)(おお)きく(はず)れてしまった、ということを()ることとなる。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加