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こんな心のこもっていない“感動的な手紙”なんて読めないの、と目をはらした女の子は言った。
感動、というものは、つかみどころがない。わたしたちはそれを直接見ることができない。その音を直接聴くことができない。その価値を直接評価することができない。
なのに、わたしたちは“感動的な手紙”を毎日書いて、それを毎日“感動的”に音読しなければならない。
わたしたちは、その手紙が、ほんとうに感動するものかどうかも知らないまま。
わたしは、改めてわたし自身が大事に握っている手紙を見てみた。すると、それは目の前の少女が持っているのと同じようにくしゃくしゃになっていた。
わたしはおそるおそる、そのくしゃくしゃに丸まった手紙を広げてみた。
目の前の女の子も同じく手紙を広げはじめる。
わたしと彼女は、歌うかのようにハモりながら、ほとんど同じような内容を一気に読み上げた。
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