空っぽの手紙

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僕は未だにその手紙がどんな目的で書かれたのか知らないし、書いた本人がもうこの世にいないのだから、確かめることもできない。 いや、仮に生きていたとしても、何を確かめればいいのかきっとわからないだろう。 『(つかさ)へ』と黒いボールペンで自分の名が記されたその手紙は、中身が真っ白だったのだから。 それは限りなく白に近いモノクロの世界。 そんな手紙だけを残し、僕を産んだ母は他界した。 そんな手紙だけを残し、僕はこれから続くであろう人生を、一人で歩くことを余儀なくされた。 いったい母が何を伝えたかったのかは、これで永遠に迷宮入りしてしまったのだけれど、あの真っ白な手紙を見て一つだけわかったことがある。 それは、やっぱり僕は生まれてくるべき人間ではなかったということだ。
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