空っぽの手紙

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そんなことを思い自嘲じみたため息をついた時、浮かんでいる白い雲を見て、耳の奥でいつかの記憶が囁いた。 ――お母さんの好きな色はね…… それはずっとずっと昔の頃の記憶。 まだ僕がこの瞳に映る世界が本物だと信じていて、母が自分に対して微笑んでくれていた頃の記憶だ。 僕は無意識にズボンのポケットに右手を突っ込むと、その感触を確かめた。 皺くちゃになった一枚の紙切れ。 言葉のない、形だけの手紙を。 自分はどうして、こんな形で生まれたのだろう? もう何百回と自問してきた言葉が、心の中でまた浮かぶ。 もちろんその問いかけに誰も答えてくれるわけもなく、代わりに頭上では無機質なチャイムの音が鳴り響いていた。
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