空っぽの手紙

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しかし、母親は自分の絵を見て喜ぶどころか、呆然とした様子で画用紙の中を見つめていた。 「どうして……空が黄色なの?」 「え?」 狼狽えるような母親の声。 でも僕は、その言葉の意味をわからなかった。 隣の席に座っている子の絵を覗き、自分の絵と見比べる。 何が違うのか、やっぱりわからなかった。 それは僕にとって、どちらも同じ『色』にしか見えなかったから。 先天性色覚異常。 それが、僕が生まれながらに患った病気だった。 医者にそう告げられた時、母親は泣いていた。 泣きながら、治ることはないのかと何度も何度も医者に聞いていた。 そんな母親の様子を見て、その時やっと自分は気づいたのだ。 僕がこの目で見ている世界は、みなと同じように見ていると思っている世界は、色を失った未完成な世界なのだと。
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