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冬の始まり②
「初めまして、香月所長‥‥なんて、もう堅苦しい挨拶なしよ。3年ぶり大出世ね、絵里。」
真木村捜査官は微笑みながら答えた。
「ただいま、夕子。大出世?まぐれまぐれ。」
香月絵里は三年前BM時空光学研究所へ赴任、つい先日帰国したばかりだった。
「絵里、変わったわね。中央シティー第三高校の泣く子も黙る女ボス‥」
「やめてよ‥昔の話は。夕子に負けて目が覚めたのよ。天狗だったわたしがね。それよりあなたこそ、あんな可愛らしい女の子が今やスナイパーNo. 1の鬼捜査官、別人かと思うよ。」
「お互い様か‥」
真木村夕子は頭をかく。
「そういうこと、」
2人はどちらからともなく大笑いをする。
「絵里‥それはそうとここへ呼び出して何か特別なことがあったの?」
「そうね、3年ぶりでこんなところに呼び出してごめんね。でもどうしてもここで話したほうがいいと思ったの。」
「そうね。街の中は盗聴メモリーや監視カメラであふれてるものね。」
絵里は防止システムを入れて、机の中から書類の入った封筒を出す。中に写真も添付されている。
「夕子、これを見てくれる。」
写真は時空光学研究所の国際会議の後に行われた晩餐会のものである。
「この男‥」
夕子は思わず背筋が凍りついた。
間違いない‥あの男だ。
10年前、神明島ターミナルに現れたあの男、ジャックスミスと名乗った男。
しかし、よく見ると以前より随分若い印象だ。
白髪に白髭、70代を過ぎてたかの顔は50代に見える。
(変装か?)
「夕子、わかるよね。私たちの命を狙ったあの悪党。」
「絵里‥間違いないわ。年齢はそぐわないけど、あの目つき、間違いなくあの男よ。」
「夕子、この男は晩餐会に出席してたの。でも
ジャックスミスではなかったわ。偽名を使ってる。そして変装をしてたかもしれない。」
「絵里、絶対許さないよね。」
夕子も絵里も10年前のあの光景に戻っていた。
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