冬の始まり⑤

1/1

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

冬の始まり⑤

霧島課長が説明する。 「この写真の男だが、国際テロリストとは称するジャックスミスだ。しばらく前からこの海西シティーに潜んでいたことが判明したんだ。」 夕子はジャックのことは既に承知済みだが、ここでは黙っておくことにした。 もしかしたら絵里に迷惑がかかってはいけないと思ったからだ。 「課長、この男はいったい何を企んでるんですか?」 霧島課長は「破壊活動‥」と言い掛けたところを柚木局長が遮ぎる。 「真木村君、私から話そう。ジャックスミスは日本の壊滅を企んでいる。」 「何ですって。でも今の日本は東日本が壊滅し、ようやくこれから再建しようという矢先ですよ。」 「真木村君、スミスが目標とするのは完全なる日本の崩壊と日本人の抹殺、いや日本はまだ最初の一歩、奴は地球革命を宣言している。」 「地球革命?」 柚木は資料を取り出す。 「奴がニューヨークで集会をした時のものだ。表向きはアース教団という宗教法人になってるが、実態はまるで違う。地球革命とは地球の救世主であるジャックスミスを神と崇め、現在地球に存在する人間を半数まで減らし、自然と共生する環境に変えようというものだ。裏を返せば、ジャックスミスの世界支配だよ。」 「そんな恐ろしいこと許せない。あの男だけは!」 夕子は怒りをあらわにする。 「きみはジャックスミスを知ってるのかね?」 柚木が切り返す。 「すみません、友人に迷惑がかかると思い黙ってました。」 夕子は10年前の事件のいきさつを柚木局長と霧島課長に話す。 「そうだったのか」 霧島が声を上げる。 「しかし、日本時空光学研究所の香月所長が友人だったとはね。」 柚木も驚きの色を隠せない。 「ところできみのその大切な人、台場涼君はどうなったのかね?」 「わかりません。彼は私たちを逃すために途中で別れて、追手が自分の方向へ向けるように仕向けたのです。」 夕子は涙が出てきて止まらなかった。 あの瞬間、忘れかけていた声が戻ってきたことも思い出した。 「そうか。そのあとあの大災厄ビッグウォールが起きたんだね。」 柚木は夕子たちが困難な状況であったことが十分理解出来た。 「私たち3人は海西シティーへ向かうロードに進んだので運良く助かったのだと思ってます。 涼は仮にもしも追手から逃れたとしても、あのビッグウォールからは逃れようがなかったでしょう。」 夕子は涙が止まらなかった。 「真木村君、辛いようだが、私はきみに非常に危険な任務をお願いしようとしてる。この通りだ。」 柚木は真剣な口調で話すとともに頭を下げた。 「そんな、局長、頭を上げて下さい。私は捜査官です。命令に従います。」 夕子も我に返り真剣な表情で訴えた。 「そうか。やってくれるか。任務は旧中央シティーに潜入し、アース教団の殲滅とテロリスト、ジャックスミスを捕縛することだ。」 「ちょっと待って下さい。東日本はビッグウォールの被災で危険区域になって立ち入りは出来ないのでは?」 「霧島君、もう一つの資料を出してくれるか。 」 霧島は引き出しから新たなファイルを取り出す。 「局長、これです。」 「うむ」 局長はファイルを開き夕子に説明する。 「真木村君、これはこの海西シティーにあったアース教団のアジトから見つけたものだ。」 「これは?ビッグウォールの抜け道?」 夕子はアース教団の信者たちが列をなして練り歩く写真を確認した。 中央シティー以降の東日本は空の上から或いは陸上や海上から見ても黄色い壁が塞がり、はいれるような余地はない。 しかしここには、黄色い壁はない。 ‥いったいどうなってるの?‥ さらに一枚の写真をみる。 胸に見覚えのあるロケットペンダントをかけた男の姿が写っていた。 05d50b93-4a8e-467d-9820-2561b0ebe8a3
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加