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「お店の許可取らないと、ほかのお客さんに迷惑じゃない?」
真顔で志桜里が私に顔を巡らす。真剣な瞳は、高校の休憩時間に、志桜里がスマホゲームに集中しているみたいだ。
私は床に置いたスクールバッグから、ハンディカムを取り出していた。お寿司が出てくる窓から、白い服の大将が見える。
「マスター、じゃなかった。大将」
「どうしたの?」
わたしは志桜里に促され、高校のホームルームで担任の先生に質問するように、片腕を上げた。
大将が窓を開く。窓枠に手を置きながら、半分身を乗り出している。
「闇回転寿司しても良いですか?」
「休憩時間近くで、お客さんいないからいいですよ」
「ありがとうございます」
わたしは椅子から腰を上げ、大将に向って深く一礼していた。レーンや友だちに体が当たらないようにするのが、少し大変。
クリニックの診察汁にあるような丸イスに、また、スカートの裾を気にしながら、腰を下ろした。
「店長さん、うちの高校の先生や生徒が常連さんだから、仕方なく、ああ言ってくれてるんじゃない?」
志桜里が厨房の窓辺に大将がいなくなったのを、チラ見しながら、わたしの耳元で囁く。
「つまり、志桜里はギブアップですね」
声を発した美紀は、湯のみをカウンターにトンッと置きながら、がレーンを見つめていた。やれやれと言った体で、志桜里は肩を竦めた。
「参加するよ」
仲良し四人の雰囲気が剣呑になる前に、ゲームスタートをすべき。わたしは判断した。
スクールバッグから取り出した、小さな三脚を、美紀と志桜里に手伝ってもらいながら、カウンターに設置する。
ハンディカムを載せて、四人が並んで映るよう、杏奈の隣にある空いているスペースに置いた。
「ゲームの順番は回転寿司のレーンの流れと一緒で、右から左へ。それでは闇回転寿司ゲームスター……」
「ちょっと、待って。今アイマスクつけるから」
一番左端に座る杏奈が、アイマスクのゴムを伸ばしながら、急いで頭から被るように、つけた。方向逆かも。ん? 右回りなら、左から右だから正しいのかな? 聞いてみよう。
「ねえ、右回りって、左から右なの?」
「そうだよ。多分……」
答えた志桜里も、目を泳がせながら、少し考える素振りをしている。レーンに乗るお皿は左から右へ流れていた。わたしは叫ぶ。
「大将! 一番左端の子から食べるから、レーンを左から右へ回せませんか?」
「構いませんが、もし、ほかのお客様が来られたら、回転方向変えます。本社には内緒にしてください」
「大将、ありがとうございます。準備が整ったようなので、闇回転寿司ゲームスタート」
わたしが拍手をする。美紀と志桜里も拍手をしていた。杏奈は緊張したのか、唾を飲み込み、クツッと喉が上下した。
見えない状態で手を伸ばして、揺れていた。わたしが手首を支え、レーンまで運んで上げた。
「杏奈お皿を取るタイミングは自分で決めてね」
「わ、分かった」
杏奈の細い指が、レーン前の虚空で震えている。このまま杏奈だけにして、残り三人で逃げたら、面白そう。でも、わたしがゼッタイみんなに怒られるので、口にしなかった。
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