H点下の奸計

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 なるくんが僕を見ていたことには気づいていた。その視線が並々ならぬ熱量を持っていることにも。  だから必要以上に女の子と親しくしてみたり、色んな奴に馴れ馴れしくしてみたりして。それでなるくんが退くならそれでいいと思っていた。だけど。 「なるくーん。おはよ」  中学生じゃあるまいしひどく重たそうなリュックを背負った猫背は、遠くからでも彼と分かる。大きな声で呼びかければ、なるくんは至極迷惑そうな顔で振り向いた。黒縁眼鏡のレンズの半分を覆ってしまう長い前髪。ヨレヨレのTシャツにヨレヨレのジーンズ。うーん地味。横にいた同期の女の子が「誰?」と問いかけてくる。 「同じゼミの唯一の同学年のなるくん」 「なるくん? 名字が成瀬とか鳴海とか?」 「ううん、千歳(ちとせ)(なる)くん」 「へえ。変わった名前~」  話している間に、僕たちはなるくんに追い付いている。なるくんは僕を見て、女の子を見て、それから僕を見て、いつも眠たそうに細められた目を更にギュッと細くした。 「本人の前で人のこと話さないでくれる……?」 「ごめんごめん。でも僕は呼びやすくてすきだよ、なるくん!」  思えばその日からだったと思う。遠くからでも、なるくんが僕を見てるなあということに気づくようになったのは。
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