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「羽田くん、これ貸してって言ってたCD」
「ありがとー!」
必要以上に大きな声で喜んで、女の子から可愛らしい紙袋に包まれた品物を受け取る。ああ……ほら、また。見てる。いくつも離れた席から、なるくんの視線を感じる。だだっ広い講義室。なるくんはいつもひとりで座る。四人掛けの長机の端。たまに誰か知らない人が反対端に座ることもあるけれど、友達と一緒のところは見たことがない。
一方、僕はというと。
「羽田、明日の夜空いてる?」
「ん~バイト~」
「そっかー。高松たちと飲みに行くんだけど、また今度な」
「羽田くん何のバイトしてるの~?」
別に顔がいいわけでもなければスポーツ万能だったり高身長だったりの特別なスペックを持っているわけではないけれど、人当りの良さが幸いして僕の周囲に人が途絶えたことはない。色んな人とわいわいやるのは嫌いじゃないし、かといって別にひとりも嫌いじゃないんだけどね。でも大学二年の今までずっとこんな風に生きてきた。
だから、なるくんがいつも僕を見ているということに気づいたときは結構びっくりした。今まで僕にそんな風に接してきた人はいなかったから。
教室にいるときも。ゼミ室にいるときも。外でたまたま会ったときも。同じ空間にいるときは必ず、なるくんの視線を感じる。そしてその視線には、好奇とか好意とかそんなものでは表現しきれない痛いほどの熱量が込められているように思えた。
視線で殺せそうな?
穴が開いてしまいそうな?
そんなものを毎日ぶつけられて、こう思うより他なかった。なるくんはきっと僕が好きなのだ、と。
正面きって確かめる度胸はさすがにない。これから四年生までの三年間同じゼミでやっていかなければならないのに、こじらせたくはない。僕もなるくんももちろん男だし。いや今はそういうことに寛容な世の中なのかもしれないけれど。それに違ったら恥ずかしいし。それにそれに、普段彼との会話は本当に少ない。ゼミで必要なことを話す他は、挨拶くらい。それもなるくんは聞こえるか聞こえないかのギリギリの声でしゃべる。そんな彼にどうしたら「僕のこと好きなの?」なんて聞けるというのだろう。
そこで僕がとった行動は、必要以上に周囲の人たちとくっつくことだった。そうやってなるくんが入ってくる余地をなくし、僕とは世界が違うんだよということを分からせる。それで諦めるなら、それでいいと思っていた。可能性は五分五分だった。
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