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「……え」
ぽかんと目を丸くするなるくん。ああ、そういうあどけない顔をしていると、陰鬱だとばかり思っていたきみの顔も結構かわいいね。
「あイタ……切れてる」
押し倒されたときだろうか。なるくんの顔を挟み込んだ僕の手のひらから結構な量の血が出ている。鞄の金具か何かで切ったかな。
「えっ……あ、ごめ……い、いや、でも、だって、羽田くん、羽田くんが……っ」
「そうだね。僕が悪いのかな」
ぱちぱち、となるくんがまばたきをするたびに僕の目に風がかかる。そのくらい誰かと顔を近づけたのって、初めてかもしれない。
「だから僕が苦しむのは仕方ないことなのかな? 僕はこんな風にされるくらい、なるくんを苦しめていたのかな?」
「……っ、そ、そうだよ! 俺がこんな風になったのは羽田くんのせいなんだから……っせ、責任とってほしいなあっ」
「いいよ」
なるくんの脚の間にある足を持ち上げる。太腿が何か硬いものに触れた。僕の首を絞めながらこんな風にしてるなんて、いけない子だね、なるくん。
「僕がこんな風にしてしまった、んでしょ? なら、責任とってあげる」
すっかり力の抜けてしまったなるくんの体を、いいように抱き寄せる。今度はしっかり深く重なるキスをして、彼の胸を僕の胸にぴっとりとくっつけた。僕もなるくんも、ひどくドキドキしている。
唇を吸って、舐めて、一通り堪能してから離して、形のいい彼の左耳に言葉を直接吹き込んだ。
「一生かけて償ってあげる。だからなるくんも、この傷のこと、一生かけて償ってほしいなあ」
切れてしまった手のひらを、ふたりの顔の間に持っていく。ふんわり立ち上がった鉄錆の匂いに頭がくらくらした。酸欠でいかれてるんだ。じゃなきゃこんなちゃちな傷で一生だなんて、笑ってしまうのに。
コクリ。なるくんの喉がなる。随分細い喉だなあ。絞めてみたい。そんなことを思って見ていれば、熱く濡れたものが傷に触れて、小さな痛みが走る。
「んっ……」
痛みは皮膚の下で別の刺激に変換され、僕の喉を下腹を震わせ、その波及でなるくんの劣情を煽る。はあ、と熱く息を吐いたなるくんの目からは完全に理性が失われていて、僕はそれを見ておおいに満足した。
かわいい。
そうやって僕に縛られていなよ。
ずっと。ずっと。
痛いくらい僕を愛して。ね?
なるくんが僕を見ていることには気づいていた。その視線が並々ならぬ熱量を持っていることにも。
だから必要以上に女の子と親しくしてみたり、色んな奴に馴れ馴れしくしてみたりして。それでなるくんが退くならそこまでだと思っていた。だけれどなるくんは僕の予想していた百倍の熱量で嫉妬に狂ってくれた。
かわいいなるくん。僕なんかに夢中になってかわいいなるくん。やっと手中に舞い込んできてくれた。もう絶対に離さない。
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