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第一章
遠野桜は、珍しい人からの電話に焦って出た。
はい。
美咲、どうした?
うん。
頼み事?
嬉しいな。
もちろん、お父さんのできることなら何でも…
うん。
菜々ちゃん?
うん。
美咲、お前、転校してイジメられたのか?!
うん、うん。
イジメられそうになっただけ?
誰だ?
そうなのか?
大丈夫なのか?
え?
その時、助けてくれたのが、菜々ちゃんか?
お前の恩人じゃないか?
お父さんも菜々ちゃん家に足向けて寝られないな。
菜々ちゃんを助けて欲しい?
お前の恩人だから、お父さんにできることなら…
それで、助けて欲しいって?
菜々ちゃんを?
はい。
菜々ちゃんのお父さん…
うん。
美咲の家の近くでは、あることで有名な人?
ああ、知ってる…
塚さん、あ、お父さんの仕事仲間だけど、ああ、美咲、何度か会って、知ってるか?
たまに近所で塚さんの車を見掛けるのか?
あの人は頼りになるからな。
うん。
あ、話が逸れたな…
その塚さんの車が停めてある駐車場の近くで、地域猫の面倒をみているおじさんがいるって、塚さんが言ってた。
本当は猫が車の上に乗って困るって…
でも、おじさんが猫に親身になってるのを見て、邪険にもできないって…
多分、その人だと思う。
塚さんたちは「猫おじさん」て呼んでいるらしい。
そうか…
え?
やっぱり、それが菜々ちゃんのお父さんなんだ?
世間は狭いな…
昔、暴走族の頭?
そりゃ、ヤンチャだったんだな。
はい。
菜々ちゃんにも、ちょっとだけヤンチャ入ってるのか?
そりゃ…
お前をイジメようとした奴らに睨み利かせてくれたのか?
良いヤンチャだ。
でも、何故、菜々ちゃんが、転校生のお前のことを守ってくれたのかな?
え?
うん。
引越した家に猫…
それで…
子猫を産んで…
町内会の人に相談した…
はい。
それで、猫おじさんを紹介されたのか?
菜々ちゃんの家に行ったのか?
その時、一度話しただけなのに、学校で助けてくれたのか?
情けは人の為ならず。
猫を助けて良かったな。
知らないの?
後で検索しなさい。
うん。
猫おじさんが認知症?
それは、医者…
猫おじさんと菜々ちゃんはこの世に二人切りなのか…
相談できる大人がいないのか…
うん。
そんなこと、お安いご用だ。
病院の送迎は引き受けた。
はい。
桜はメモ用紙にペンを走らせた。
窓からは、朝日に輝く桜の車が見えていた。
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