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1.中学生の終わり
1.
そのときの私は中学生で、桜並木を校門から校舎に向かって歩いていた。
午後5時過ぎで、あたりは夕闇に包まれていた。
私は、歩きながら、校舎の方に目をやった。
職員室の窓だけ明かりがついていた。卒業式が終わり、春休みが始まっていたが、先生が高校受験の合格報告にやってくる生徒のために待機しているのだった。
私の報告を待っている先生など存在しないし、第一私は報告するようなこともなかった。どこの高校へも合格しなかったのだから。
思えば、中学生生活はろくなことがなかった。思いだしたくもないが、毎日意味もなく突然けられたり、教科書に落書きされたり、給食にはゴミを入れられたりと、あげていけばきりがないほどのイジメ、もはや犯罪をクラスメートから受けつづけていた。
そのイジメも辛かったが、回りの同情するような、さげすむような、自分じゃなくてよかった、という目線も、私の自尊心を時間をかけて破壊していった。
教師も、イジメをする方と仲がいい始末で、私が勇気をふりしぼって相談しても、あきらかに面倒臭そうに対応して、最終的には私が悪いという結論になり、なぜか反省文を書かされた。
学校もなにもしてはくれなかった。
そして、いちばん辛かったのは、好きだった人のかわいそうなものを見るような、私にたいする目線だった。
正面から、誰かが歩いてきた。近づいてきて、やっとわかった。私の好きだった、同級生の女の子だった。たぶん、東京の清風高校に合格したことを、担任の先生に報告した帰りなのだろう。
肩にふわりと載せた三つ編みの先には、校則どおりの紺色のリボンがちょこんとむすばれている。それでいて女子にしては身長が高い方で、すらりと手足がのびて大人っぽい。色白の顔に、切れ長の黒目で、今日はその頬は寒さですこし赤らんでいる。
「こんばんわ、あなたも先生に合格の報告? じゃあね」
彼女はこんな私にも、にこやかにあいさつしてくれた。私はおどおどして頭を下げる。歩いていく彼女を見送りながら、私の頭のなかで声が聞こえた。誰の声だろう。すこし幼いような男性の声がする。私は頭が真っ白になり、意識がなくなった。
気が付いたら、私は、地面に横たわって動かなくなったその人を、血だらけのナイフを握りしめながら見下ろしていた。その人の中学の制服には、「みちよ」と書かれた白い名札がついていた。
私が殺したのだろうか。頭が真っ白で、まったく記憶がない。
でも、状況からすると、私が殺してしまったようにしか見えない。記憶がない、なんていう言い訳を警察が聞いてくれるわけもない。
こうして考えているうちにも、誰かがやってくるに違いない。私は、震える両手で血だらけのナイフを自分の首元に突き付けて、ひと思いに突き刺した。
(第1話 おわり)
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