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初めは何が起こったのか分からなかった。海上で漁をしていたら突然激しい潮流に巻き込まれ、あっという間に夜になり、気がついたらここにいた。
船に明かりを灯し辺りを見回すと、地下の洞窟となんら変わらない閉鎖的な空間だった。周囲の壁はゼラチンみたいにぶよぶよで、漂う空気は生臭さを感じた。
そこでようやく状況を把握すると同時に、今までこの海域で船が何隻も行方不明になっていた原因が判明し、俺は絶望した。
しかし、俺はまだ生きている。ギガントホエイルは一般的なクジラとは違い、餌を海水ごと胃まで飲み込む。海水の中には酸素も含まれているので酸欠になることもなく、胃液も海水により薄まり船体はまだ腐食せずにすんでいる。今も胃液の混ざった海中で、丸飲みにされたばかりの魚が何も知らずのんきに泳いでいる。
このままこいつらのように大人しく胃袋の中で溶かされ化け物の一部となるわけにはいかない。俺には俺の帰りを待つ愛する妻と娘がいるんだ。
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