喰われた漁師

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 ここは地下の洞窟と同じく太陽も月も見えない。この懐中時計だけが時を知る唯一の術だ。  短針が一周したら手帳に線を一本引く。今、十四本目の線を引いたから飲み込まれて丁度一週間が経ったわけだ。  一体いつまでこの穴ぐら生活は続くんだ。娯楽も無ければ酒も煙草も無い。さすがに参ってきた。  妻と娘は元気にやっているだろうか。こんなことになるなら、一人で漁になど出るんじゃなかった。いくら貧しい生活から抜け出そうと必死になったところで、稼ぎ頭の俺がこの様では元も子もない。  いや、いくら稼ごうがこの世は弱肉強食。弱者は力のある者に食い物にされ、落ちぶれていくのが世の理。俺もまた、生まれてからずっと“喰われるもの”だったのだ。
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