喰われた漁師

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 六十本目の線を引いた。  ひと月も過ぎると、いよいよ体調が優れなくなってきた。  さすがに魚介類や海藻だけでは全ての栄養を補えない。むしろ魚介類に含まれるプリン体を過剰摂取し過ぎると、痛風や尿管結石など重大な症状を引き起こす恐れがある。  それに人は日の光を浴びねば体内でビタミンDが生成されず免疫力が低下する。  遅かれ早かれこうなることは分かっていた。生物の体内でひと月も生きれたら上出来だ。やれることはやったのだから、このまま力尽きても未練は無い。  だが、弱ってきたのは俺だけではなかった。    最近、餌の送り込まれてくる回数、量が共に減っているのだ。  まさか俺がここで獲物を横取りしていたから栄養不足に陥り元気がなくなったのだろうか。いやいくらなんでもそこまで横取りしたつもりはない。だとすると、寿命だろうか。  そしてある日を境に、ついに何も送り込まれて来なくなった。  とうとう溜まっていた海水もなくなり胃は空っぽに。このままでは酸欠は免れないだろう。  俺は絶望の沼に飲み込まれていく心境だった。  何も食べなくなったということは、それをする必要がなくなったということ。つまり、奴は死んだのだ。  このままでは浮力を失った死骸は海底深くに沈んでしまい、多くの魚の餌となり、俺も一緒に海の藻屑となる。一巻の終わりだ。  ただ、波に流され岸に打ち上げられる可能性も0ではない。そうなればしめたものだが、それまでここの酸素が持つ保証は無い。というか今日一日持つかどうかも怪しい。ここで死を待つより無理にでもこの沈み行く船から脱出するべきだ。   一縷の望みに賭け、俺は行動を開始した。
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