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電灯を片手に食道のトンネルを進んでいく。
その途中で上に続く縦穴を見つけた。この穴こそ奴が潮を吹く時に使用する鼻孔に違いない。
俺は今まで流れてきた樽を運び込み、階段になるように積んでいった。何とか穴の入口に届く高さまで積むと、今度は割った酒ビンを内壁に突き刺し足場を作った。それを手がかり足がかりにして登っていく。さながらロッククライミングをしているようだ。
やがて手持ちの酒ビンを全て使ってしまった。ここから先は自力で登っていくしかない。内壁のヒダに指をかけ、落ちないように慎重に登る。
だいぶ登ったが、まだ出口は見えない。そのうち手の握力がなくなり始め、たまらず掴まったまま休憩を取る。
この高さから落ちれば死は免れない。何気なく下を覗くと、頭に固定していた電灯が落ちてしまった。
闇の中に吸いこまれていく光を見送り、たまらず心が折れかけたその時、俺は気づいた。
ほんのりと、上の方が明るい。
光だ。光が見える。
ということは、外は海中じゃない。紛れも無く、お日様の下だ。
俺は最後の力を振り絞り、光を目指し無我夢中で登った。
だんだんと光が大きくなっていく。あと少しで出口に到達かと思ったその時、
「ーーーー」
光の向こうから、話し声が聞こえた。
間違いない。人だ。人がいる。助かった。俺は助かったんだ! 安堵から自然と涙がこぼれ落ちる。
そしてついに、穴の縁に手をかけた。
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