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「ただいま。」
「あ。お帰りなさい……」
居間の戸が開いて、夫が入って来た。
玄関開いた音、したっけ?……だめだ、耳までおかしいかも……。
「大丈夫か?顔色悪いな」
夫がソファの横に来て、おでこを触ってくれた。
手が、ちょっとひやっとする。それが気持ち良くて、思わず目を閉じた。
「へーき、なんともない……けど、ご飯はまだ作れてない」
へにょっと情けない顔になりそうなるのを見られたくなくて毛布をかぶったら、その上からぽんぽんって撫でられた。
「心配するな。俺が作る。」
「えっ?!」
驚いて、毛布をはいで、顔を出しちゃった。
「……材料切って煮るだけのうどんだけどな」
そう言って、小さい土鍋をふたつ出して水を張って火にかけてから、スーパーの袋からうどん玉とか野菜とかの材料を出した。
「……ありがとっ……」
切って煮るだけって言ったってそれなりに手間はかかるし、買い物だって、簡単じゃない。私が起きてなかった朝のうちに冷蔵庫の中を確かめて、帰り道では通らないスーパーまで、わざわざ行ってくれたって事だ。
私の為……と、子どもの為に、慣れない事をしようとしてくれてるのが、すごく嬉しい。
「……だから、ちぃは安心して寝てる様に。」
ひんやりした手でほっぺも撫でてくれたから、その手に顔を擦り付ける。
「ん。お言葉に甘えて、また横になるね……けど、ちょっと……もっとこっち来て?」
「ん?」
側に来たから、両手を伸ばす。
「ぎゅってして。」
「え」
「あのね?匂い悪阻っていうのが、有るの」
「それは……嗅いだら気持ち悪いって奴か?」
「私のは、逆なの。だから、ぎゅう!ってして?」
「……なるほど。」
夫は私の体に手を回して、おまじないかなんかみたいに「ぎゅう」って言いながら、ぎゅうじゃなくて緩く抱いて、頭を何度も撫でてくれた。
妙に真面目な「ぎゅう」がおかしくて笑っちゃった私は、また少し元気になった。
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