「お前は二人分食べないと。」って、夫が私に言うんです。

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「容器に入ったまま湯煎(ゆせん)で温めると良いって、昔聞いた事が有ったから。思い出して、やってみた」 「へえ……」  昔聞いたって、誰に?  ……って聞きたいけど、聞かない。  夫はもともと、料理なんかしない人だった。それどころか仕事が忙しかったりすると、何も食べない人だった。  なのに、「湯煎」とかそんな事を知っているのは、誰かに──綺麗で華やかで頭の回転が速そうな、奥さんだったあの人に教えられたのかもしれない。  今ご飯を作ってくれたり、こうやって私の食べれる物を探し回ってくれたりするのは、結婚前の事を考えると奇跡みたいだ。  ……それは多分、この子と私の為にしてくれてることで……なのに。  心が狭くて焼き餅焼きの私は、時々夫の昔の事が気になってしまう。  でも、今と未来はこうやって私たちと一緒に過ごすって、決めてくれたんだから。  自信持たなきゃ、いけないよね……。 「……赤ちゃんって、すごいね」 「ん?」 「ご飯作ってくれる様になるなんて、思ってもみなかった」  からかい半分で、言ってみる。 「……凄いのは、ちぃだろ」 「へっ?」 「男には腹ん中で育てるのも、産むのも無理だからな。それに、ちぃがこんなにすぐに母親になったのは、俺のせいだし……出来る事は、何でもする」 「……『俺のせい』なんかじゃ、ないですよ?」  ソファの隣に座った夫の手を握る。
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