「お前は二人分食べないと。」って、夫が私に言うんです。

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 お母さんになるのは、夫の「せい」なんかじゃない。私もそうしたいと、願った結果だ。  私達の結婚は、あんまり周りに賛成されなかった。夫が初婚じゃ無かったこととか、安定してる仕事じゃないとか、傷付けてしまった人が居たとか、そして何よりも、夫の仕事が私の体にあんまり良くない事があるとか、反対の材料ばかりが有ったから。  だから、おめでたが分かった時は、本当に嬉しかった。私達が家族になる事を、神様が許してくれたみたいな気がした。 「……そうだな。『せい』じゃないな。……『せい』なんて言って、ごめんな」  夫が真顔で、まだ膨らんでも居ないお腹に、頭を下げた。 「……ふふっ」 「おかしいか?」 「ううん。嬉しい。あと……(いと)しい?」 「……ああ。(いと)おしいな」  そう言うと私の事を抱き寄せて、髪とお腹を撫でながら、ちゅって私にキスしてくれた。  ……私が愛しいって思うのは、この子のことだけじゃ、ないんですけど。 「子どももだけど、俺はお前が一番愛おしい」  口にしないうちに、思ってたのとおんなじ言葉が返されて。  くすぐったさと、嬉しさと、愛おしさとを感じながら、夫にキスで答えを返した。            【終】
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