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奈未さんの家は、歩いて5分ほどのところにあるマンションだった。
「大して広くない家だけど、適当にくつろいでて。」
よく整理された玄関から、廊下を進んでいく。ふわりと優しい香りが漂っている。
カウンターキッチンの向こうでせわしなく動く奈未さんを伺いながら、俺は慎重にソファーへ腰を下ろした。
珍しく落ち着きのない背中を見て、気持ちがざわついていくのを感じる。
「はい、お待たせ。」
小さなガラステーブルに並んだ、二皿のカレー。湯気が芳しく香る。
そして、いつだってカレーは美味しい。きっと、奈未さんが作ってくれたからなおさらなのだろう。
「ごちそうさまでした。」
食卓を囲んだ世間話はどこか上の空で、話の内容の事なんかお互いにろくすっぽ考えていなかったように思う。
何かを押し殺そうとしながらも、どうにも堪えられないでいる奈未さんと、それを見て胸騒ぎを覚える俺。
「ありがとうございました。カレー、美味しかったです。」
俺は立ち上がってスクールバッグを取った。この張り詰めた膠着に、耐えかねたからだ。
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