千都香と同僚と複雑なパンダ

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「食べます?パンダ焼き。」  遅番上がりのロッカーで、平取千都香が小さな紙袋を両脇の同僚に見せて来た。 「あら可愛い!どこで売ってるの?」  袋を覗き込んだ田仲は声を上げた。小袋の中には、小さなパンダの人形焼きがごろごろと入れられている。 「上野です……多分。」 「多分?」 「……貰い物なんで、多分……」 「えっ?パンダ?!ゴチになります!」  千都香が田仲にパンダの経歴を語っている隙に、着替え途中だったにもかかわらず木村が袋から一匹つまみ上げた。 「木村。着てから食べなさい」 「わ、見て!!いい感じでクリーム出た!!」  見るとパンダの頭が取れて、そこからカスタードクリームがはみ出して居る。  ホラーである。 「止めてー!木村!」 「……もっとやっちゃって下さい」    千都香と田仲の正反対の要望が(かぶ)った。 「え」 「えっ」  俯いてパンダの袋を見ている千都香を挟んで、木村と田仲の目が合った。 「平取ちゃん、意外と残虐?」 「そういうの、好きだった?」 「好きじゃ、ないです。」  千都香の眉間に、皺が寄る。 「『ダヨネー?』」  胴体をもぐもぐと噛み砕きながら、木村は生首に喋らせた。 「木村ー!止めてってば!」 「……パンダなんて……」 「わ!」  千都香は袋に手を突っ込んでパンダを取り出すと、丸ごと一匹口に入れた。 「パンダ丸飲み!?」 「ちょっと……平取さん、大丈夫?」  心配した田仲に、千都香は眉根を寄せたまま頷く。 「……じょぶれふ……もいひぃれふ……」 「頂きます。……うん、美味しいわね、これ」  田仲が、三人の中では一番大人しく食べながら呟いた──この場合の大人しくというのは、パンダを縦に真っ二つに齧ったという事である。 「ご馳走様、おいしかった、パンダの踊り食い!」 「……もっと食べちゃって下さい。」  一匹食べ終えた木村に、二匹目を片手に持った千都香が、袋をぐいっと差し出した。 「え?なくなっちゃうよ、パンダ」 「一人で食べたくないんです。」  相変わらず、眉間の皺は寄ったままだ。  田仲と木村はむぐむぐしている千都香越しに顔を見合わせた。  パンダ焼きは、パンダではあるが、食べ物だ。  ファミレスに持ち込んで食べる事は、出来ない。  二人は小さく頷き合った。 「ほんとに、良いの?食べちゃうわよ?」 「はい。」 「木村、二匹目頂きまーす!」 「どうぞ。」  こうしてパンダ焼きはあっという間に絶滅し、眉間に皺の寄ったままの平取千都香は同僚達によって、ファミレスに引きずられて行ったのだった。            【終】
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