華也子とパンダ(と、元夫)

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「あ。壮介、ちょっと待って」 「んだよ」  華也子は壮介の袖を引いた。  改札を出たところに、人集(ひとだか)りがしている。何やら良い匂いまで漂ってくる。これは、気になる。行かずには居られない。 「遅れんぞ。お前、東京着くのも遅れたんだろうが」 「私じゃなくてNEXに言って頂戴。いいじゃない、私もあの人たちみたいなものなんだから」 「知るか」  並んでいるのか見物しているのかはっきりしない外国人観光客たちを指差したが、にべも無く言い捨てられた。なのに荷物は持っていてくれるし、早く並べと手で人の事を追い払って来る。  相変わらずだ、とくすりと笑う。  この愛想が無くて頑固な癖に優しいというややこしさに惹かれて生涯を共にすると誓ったものの、最後はそれが許せなくなって別れた。近付き過ぎたのかもしれない、と今では思う。こうして久し振りに一緒に過ごしても、別に嫌とは感じないのだから。  運が良かったのか華也子が招き猫体質なのか、並んだ後ろにどんどん人が増えて行く。前に居る客の注文の仕方を見て、どれをいくつ頼むか考えて、わくわくする。華也子が今拠点にしている所には、こんな物は売っていないから尚更だ。  「お待たせ、ありがとう……はい」 「あん?」  荷物を渡して来た手の上に、ちょこんと一匹のパンダを乗せた。 「んー……『パンダ焼き・プレーン、クリーム、チョコ、はちみつ、季節の味 ※固くなったらオーブントースターで温めてください』、ですって」  説明書を読み終えるや否や、一口齧(かじ)る。焼き立ての熱々の香ばしさは、その場でないと味わえない。立ち食いの行儀の悪さの特権だ。 「……情け容赦無ぇな、お前」  華也子がパンダの頭部を齧り取ってもぐもぐと咀嚼していると、手の上のパンダをじっと見ていた壮介が、眉間に皺を寄せた。  仕方無いではないか。これは、生き物ではなく、食べ物だ。 「。壮介、ちょっと待って」 「んだよ」  華也子は壮介の袖を引いた。  改札を出たところに、人集(ひとだか)りがしている。何やら良い匂いまで漂ってくる。これは、気になる。行かずには居られない。 「遅れんぞ。お前、東京着くのも遅れたんだろうが」 「私じゃなくてNEXに言って頂戴。いいじゃない、私もあの人たちみたいなものなんだから」 「知るか」  並んでいるのか見物しているのかはっきりしない外国人観光客たちを指差したが、にべも無く言い捨てられた。なのに荷物は持っていてくれるし、早く並べと手で人の事を追い払って来る。  相変わらずだ、とくすりと笑う。  この愛想が無くて頑固な癖に優しいというややこしさに惹かれて生涯を共にすると誓ったものの、最後はそれが許せなくなって別れた。近付き過ぎたのかもしれない、と今では思う。こうして久し振りに一緒に過ごしても、別に嫌とは感じないのだから。  運が良かったのか華也子が招き猫体質なのか、並んだ後ろにどんどん人が増えて行く。前に居る客の注文の仕方を見て、どれをいくつ頼むか考えて、わくわくする。華也子が今拠点にしている所には、こんな物は売っていないから尚更だ。 「お待たせ、ありがとう……はい」 「あん?」  荷物を渡して来た手の上に、ちょこんと一匹のパンダを乗せた。 「んー……『パンダ焼き・プレーン、クリーム、チョコ、はちみつ、季節の味 ※固くなったらオーブントースターで温めてください』ですって」  説明書を読むや否や、一口齧る。焼き立ての熱々の香ばしさは、その場でないと味わえない。立ち食いの行儀の悪さの特権だ。 「……情け容赦無ぇな、お前」  華也子がパンダの頭を齧り取ってもぐもぐと咀嚼していると、手の上のパンダをじっと見ていた壮介が、眉間に皺を寄せた。  仕方無いではないか。これは、生き物ではなく、食べ物だ。     
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