76人が本棚に入れています
本棚に追加
朝、目が覚めるとすぐに枕の横に置いてあるスマホが視界に飛び込んできた。充電をし忘れたそれは静かに電池を消費し、残量は五十パーセントギリギリ。ため息をこぼしコードを手繰り寄せ、先端をスマホに刺した瞬間にパッと明るくなった画面に、結は釘付けになった。
スマホの画面いっぱいに映る、ひとつ年下の後輩。少し前までは『後輩』でしかなかった宮近頼人は、現在、結の恋人だ。
かっこいい。いつも見ているはずなのに、今日もまた性懲りもなく見惚れてしまう。スマホの中で笑う頼人の顔を指で辿り、結は夕べのことを思い出した。
頼人と眠る直前まで他愛もないメッセージのやりとりを繰り返し、その結果、充電する間もなく結は眠りにおちたのだ。付き合う前までは、用事がなければ送ることの出来なかったメッセージ。それが今はいつでも出来るとあって、夕べはずいぶんと長く頼人と言葉を交わしたのだった。
画面を開いてみると、寝落ちしてしまった自分の最後のメッセージは意味不明で、それに対し頼人から返信が届いていた。
――篠田さん? 寝た?
当然それに対する結からの返信はなく、数分後、頼人から「おやすみ」の四文字が届いている。画面を見つめ、その数分の間、頼人は自分からの返事を待っていてくれたのだと思うと、結はそれだけで朝から叫びたくなるくらいだった。同時に、頼人に「おやすみ」を返せなかったことが、ひどく悔やまれる。
じっと画面を見つめ「おはよう」を送ろうかどうかと悩み、結は画面右上の時刻に目をやった。
六時四八分。
七時になったらメッセージを送ろう。そう決めて、わずか十分ばかりの二度寝に勤しむ。しかし、目を閉じても浮かんでくる頼人の顔に、結の二度寝は叶わなかった。
仕方なくじーっとスマホを見つめ、七時になるのを今か今かと待つ。待っている間の一分は気が遠くなるほど長く、結は数字が変わる瞬間を待ちながら、ふと、あることに気がついた。
あと一分で七時になる。そして、あと一パーセントで充電が七七パーセントになる。七が揃うといいな。そんなことを思っているうちに、時刻は七時になり、そして充電が七七パーセントに達した。スロットなら大当たりだ。嬉しくなって頼人にメッセージを送ろうと「おは」まで打った時、結より早く頼人からメッセージが飛んできた。
――おはよう。今日から七月だよ。
夕べは六月の最終日。そして今日から、夏がはじまる。七の並ぶ夏のはじまりに、結は胸を高鳴らせながら、愛しい恋人に朝の挨拶を返した。
最初のコメントを投稿しよう!