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その日は、晩秋の日曜日だった。
僕は彼女とイオンにあるレストランでランチ・デートでした。
美味しいものを彼女と一緒に食べるのが大好きです。幸せな気分も味わえるので、最高です。
僕はペペロンチーノ、彼女はシーフードをオーダーし、彼女と少しずつ取り替えっこして、ニコニコとパクパク食べていた。
突然、背筋がゾクゾクする。
おかしい。
お店の暖房はほど良く利いているし、風邪をひいた覚えもない。
馬鹿は風邪をひかないというし、不思議に思いながら、後ろを振り返ったら少し離れたテーブルの女の子の二人組の一人が、僕を恨めしげに睨んでいる。
眼があった瞬間、僕はすぐに視線をパスタに戻した。
こんな所で、こんな時に出会ってしまうなんて、最悪だ。
元カノだった。
ふったのはあちらだけど、ふるようにしむけたのは僕かもしれない。
あちらも新しい彼氏と一緒なら、良かったのに。
僕は、元カノが見ているのも知らずに、今カノとイチャイチャしていたわけだ。
恐怖心が、僕をジワジワと支配する。
「どうしたの。」
不思議そうに尋ねる彼女に、本当の事を言えるはずがない。
言ったが最後、こっちに殺される。
さらに、恐怖心が増大する。
「いやあ、今日はあまり待たずに座れて良かったなあと思ってさ。」
何食わぬ顔をするしかない。我ながら、クサい芝居だ。
「そうだね、ラッキーだね。」
何も知らない彼女は、美味しいパスタに夢中だった。
僕は絶対に後ろを振り返らないと心に固く誓い、パスタに集中する。
背筋のゾクゾクは、まだ消えない。
無事パスタを完食し、今度は二人でピザに集中することになった。
そのうち、フッと背筋のゾクゾクが消える。
それでも、僕は後ろを振り返ることはできなかった。
レジの方を恐る恐る横目でチラリ見すると、元カノが女友達と代金を支払っているのが確認できた。
元カノはプライドが高いのか、大人になったのかわからないが、ラッキーだった。
「あら、久しぶり。今度はこんな女と遊んでいるの。」
帰り際に元カノにそんなこと言われた日には、修羅場になる。
血の雨が降るかもしれない。
確認した後、僕はすぐさまピザに集中しなおす。
決して、顔を上げなかった。
元カノが完全に視界から消えるまで、上げることができなかった。
「どうしたの、一言もしゃべらないで。」
不思議そうに聞く彼女に、僕は彼女の瞳を熱く見つめて、渾身の笑みでそっと囁く。
「幸せな気持ちで、胸が一杯なんだ。」
「まあ、よく言うよ。」
口ではそう言いながら、彼女の小鼻がピクピク動いている。
機嫌が良い証拠だった。
本当は、元カノに見られていて恐怖心で胸が一杯だったんだよとは、口が裂けても言えなかったのである。
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