序、雨

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序、雨

僕は、泣いていた。 一人の少年が雨の中、お店の建ち並ぶ交差点の真ん中で空を見上げていた。 その時、どういうわけか道路には車どころか通行人すら一人もいなかった。普段は車や自転車、通行人でいっぱいになるその道路には今、少年一人だけが雨に打たれて立っていた。昼なのに薄暗く、お店の灯りが濡れた路上に反射している。 少年は瞬きもせずに空を見た。空いっぱいに垂れ込めた雨雲から、たくさんの雨粒が降り注ぐのを、ただじっと見上げていた。まるで大切なものが、そこにあるかのように。見上げていれば、いつか探し物が見つかるとでもいうように。暗い空を見上げて、びしょ濡れで身体が冷えるのも厭わず、足元が水たまりで泥だらけになるのも厭わず、雨音のみが響く路上で、時が止まったようにそこにいた。 次の瞬間、道路には雨音以外のすべての喧騒が戻ってきた。 クラクションの音、行き交う車、お水が跳ねる音、お店の音楽、通行人の足音、喋り声。 少年はすべてが動き出しても、変わらず交差点の真ん中にいた。誰も少年に気がつかない。通り過ぎる車の運転手の目にも、沢山の通行人たちの目にも、少年は写っていなかった。 少年は一度、視線を空から外し辺りを見渡した。車が少年のすぐ側を通っても構わずに、一通り見渡すと下を向く。 「また、みえなかった…。」 少年は確かに探していた。それは少年にとってとても大切なことだった。幼い頃から、ずっと信じていたもの。 そして、事故の原因になってしまった、あのーー。
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