中、過去

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中、過去

あの日、少年は友人たちと一緒に、この交差点を歩いていた。その日も今日と同じような雨で、車の通りも多く、喧騒が辺りに満ちていた。少年たちのさす傘が通りすがった大人たちの肩に当たってしまうので、道幅を取らないよう2人一組で傘に入っていた。 「雨の日、雲の真ん中に光の穴があくんだ。その穴から光が差し込んで、光の柱ができる。そしたらどこからか白い鷹が現れて、虹をくぐって天国へ飛ぶんだって。」 友人たちは半信半疑の顔をして、少年の話を聞いていた。 「飛んでどうすんだよ?」 「その白い鷹を見た人は、一度だけ天国にいる人と会わせてもらえるんだ。鷹が運んでくれるんだよ。」 友人の何人かは、それを聞いて鼻で笑った。 「そんなの、鷹が人間を運べるわけないだろ。第一、白い鷹なんているわけないじゃん。」 「雲に穴があくってのも、なんかあり得ないしな。」 「デタラメなこと言うなよ。」 少年は誰一人信じてくれない様子を見て、少し意地になった。 「本当だって!雲の間からこうやって、一筋の光が差すんだ。そこにだけ小さな虹ができて、白い鷹が通るのを見たって!それで婆ちゃんに会ったって、爺ちゃんが言ってたんだ!」 「爺ちゃんが嘘ついたんじゃないの?」 「お前、爺ちゃんに嘘つかれたんだよ。」 みんなに嘘つき呼ばわりされる中、 「そ、それか、なんかのお伽話なんじゃない?別に嘘とかじゃなくて、物語として聞かせてたのかも。」 一緒の傘に入っていた友人が、取りなすようにそう言った。でも、その子もあまり信じていないような顔をしていた。 このままでは、爺ちゃんが嘘つきだと思われてしまうと思ったらしい少年は、空を見上げた。もし、今見つけられたなら、みんなもきっと信じてくれると考えたのだろう。結構な雨が降っていたが、少年は構わなかった。 すると、本当に雲から光が差した。低く垂れ込めた雨雲の一部にだけ穴が開き、太陽の光が一筋、雨の中細くその柱を映し出した。 少年は目を見開き、笑い叫びながら次の瞬間駆け出していた。 「ほらみんな!あそこに光がっ!爺ちゃんは嘘なんてついてなかったんだ。本当だったんだよっ。」 少年はだんだんと強くなってきた雨の中に飛び出した。少年の目には、たった今空に現れた天国への光柱しか見えていなかった。 「爺ちゃんっ。」 そしてやっと立ち止まり、祖父のことを口にした時。 大きなクラクションの音に、少年は横を見た。車が、少年に向かってきていた。ライトが眩しく、他には何も見えない。少年は目を見開いて、時が止まったように動けないでいた。少年の耳に、友人の声が長く響いた。 「信司(しんじ)ーーーー!!」
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