終、光柱

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終、光柱

あれから、もう何年も経った。少年はあの時のように、今もここにいる。 歩道に、スーツ姿の若い男が立っていた。毎年、雨の続くこの時期になると必ず来る男だった。あの日から欠かすことなくずっと。 男は少年を見た。いや、男に少年のことは見えていない。あの時、少年が立っていた場所を思っているだけで、少年の姿はその目に写っていなかった。 男が口を開く。 「…あの時、ちゃんと信じてやらなくてごめんな。お前が傘から飛び出した時、お前の手を掴もうとしたんだけど、できなくてごめんな。すぐ隣にいたのにな。俺がちゃんとお前を引き止めていれば、お前は…。」 男は電信柱に綺麗な花束を置き、少年がいる方に向かって手を合わせた。 「…お前、今どこにいるのかな。爺ちゃんと一緒にいるのかな。ちゃんと天国にいけたか?それとも、まだここにいるのか?お前が言ってた光柱が見えたら、お前に、会えるのか?」 男は顔を上げ、空を見た。あの日、少年が見ていたように。少年も、男に合わせて空を見上げた。 すると、雲間から一筋、光が差した。暗い空に細い光の筋が1つ、二人の前に。 「あっ!」 強まる雨の中、光柱ははっきりと空に現れた。虹が光柱を包むように少しずつ浮かび上がり、どこからか白くて大きくて美しい鷹が光柱に飛んでいた。 少年は喜びに顔を綻ばせた。長い年月の間、少年はこの瞬間を待っていた。男の方を見る。 男は本当に現れた光柱に向かって叫んだ。 「お願いだ!俺を天国に連れて行ってくれ!信司に会いたいんだ!ちゃんと、謝りたいんだ!」 そして、ふと道路を見る。そこには光柱に照らされた少年が、男に向かって微笑んでいた。 「信司(しんじ)!!」 いつのまにか車や通行人が消えて辺りには少年と男しかいなかった。ただ、雨だけが降り続けていた。 男は傘を捨てて少年の元に駆け寄った。少年は笑っていたが、身体はびしょ濡れだった。長い間ずっと、あの光柱が現れるのをここで待っていたのだろう。 「ごめんな、信司(しんじ)。あの時、ちゃんとお前の話を聞いて、信じてやれなくて。お前を止められなくて。俺、ずっとお前に謝りたかった。許してもらえないかもしれないけど、ずっと謝りたくて、あの光柱を探して…。」 男は子供のままの少年の、雨に濡れた姿を見て、言った。 「お前、ずっとここにいたのか…?」 それを聞いた少年は、男の瞳を真っ直ぐに見つめて、やはり笑っていた。そして男から視線を外し、空を見上げて光柱を登って行った。 「待ってくれ!俺はまだ話したいことがあるんだ!やっと…やっと会えたのに!」 少年は男を振り返り、ニコッと笑って手を振った。いつのまにか少年の側には白い鷹がいて、虹まで少年を引っ張って行った。 「ありがとう、かっちゃん。」 最後に少年はそう言うと、虹をくぐった。虹をくぐると、少年の姿は消えてしまった。 そして、光柱もあっという間に消え去った。
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