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プロローグ
土曜日だったその夜、急に「明日の夏祭りに一緒に行けるようになった」って、彼氏の桜野滉也からメッセージが届いた。
それは、七月最終の土日に毎年行われている地域の大きな夏祭りで、私がずっと行きたいと言っていたけれど、滉也はバイトを入れてしまっていたから叶わないだろうと思っていた。
最近の滉也は大学の強豪バレー部の試合が続いているうえ、お互いにバイトと友達関係もあってなかなか会えないことが多く、先週の私の二十歳の誕生日でさえ忘れられてしまっていた始末だった。
だけど、昨日に限ってそんなメッセージをよこして、OKの返事を出したら間もなく、夜の十時を回っていたのに、私のひとり暮らしをしているマンションに現れた。
「これ、莉帆に似合うと思って。明日、着て欲しいんだ」
彼が差し出したのは、紅の作り帯の付いた浴衣セットだった。
淡いピンク色の生地に大きな赤やピンクの牡丹と、白や黄色の細かい小菊の花があしらわれた、女子力の上がりそうな可愛らしい浴衣だ。
「可愛いけど……いいの?」
「ほら、先週の誕生日になにもしてあげられなかったし。浴衣は自分で着られるって言ってたよね?」
「誕生日、覚えていたんだ。ありがとう」
私はただ、嬉しくて嬉しくて舞い上がっていた。
久しぶりのデートは諦めていた夏祭りで、しかもプレゼントの浴衣付きだなんて!
だけど、私はその浴衣を着て夏祭りへ行くことは叶わなかった…………。
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