61人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
ピンポーン、と再びチャイムが鳴った。
あれ? 今、確かにドアを開けたよね?
なんだか意識が朦朧として、フラフラとしているのが自分で分かる。
だけど、ここは玄関ドアの前だし…………あれ? ドアを開けたわけじゃなかったの?
まるで白昼夢でも見たような奇妙な感覚だった。
さっきまで無かったはずの、激しい目眩を感じている。もしかして、急激に目眩が襲ってきたから幻覚を見たの?
とにかく、久しぶりに滉也と出かけるのだから早く開けないと。
半ば混乱しながら、私はドアを開けた。
「ジャーン‼」
「夏祭りに行くよー!」
そんなおかしなテンションで現れたのは、同じ演劇サークルの仲間である親友の金子愛と五月女僚汰だった。
私はまだ目眩の中にいながらも、滉也じゃなかったことに落胆してしまった。
「ごめんね、今日は三時に約束しているの」
ふたりは私を見るなり、驚いたような表情で固まっているように見えた。
浴衣を着ていたから……?
「ちょっ……やだ、きゅ、救急車、呼ぼうか?」
「大丈夫かっ、おい」
えっ? 私、そんなに具合悪そうなのかな?
ちょっと目眩しているだけなんだけど。
でも、ふたりが私の顔より下の方を見ていることに気が付いて、私もゆっくり視線を自分の身体の方へ移した。
「……ヒッ‼」
声にならない悲鳴がこぼれて、僚汰君が慌てて「中に入ろう」と私と愛を部屋の中に押し入れた。
浴衣が血まみれだった…………。
まだ目眩がしているうえに驚きすぎて、また押されてしまったこともあり、玄関で尻もちをついてしまった。だけど、痛みは今打ったお尻以外には感じていない。
「大丈夫か? 救急車呼ぼう」
「や、やだ……莉帆。一体どうしたのよ……」
私はスマホを出した僚汰君の腕をつかんで電話をかけることを制し、泣きそうな愛に向かって首を横に振った。
「ち、違う。私の血じゃない、これ……。私、どこも、痛くない……」
「えっ? そうなの? 大丈夫なの?」
「じゃ、これってなんだよ?」
ふたりの視線が私の浴衣に再び集まった。恐る恐るもう一度見ると、お腹の帯のあたりから襟のあたりまで、大量の血が飛び散っているように汚れていた。
まるで、返り血を浴びたような……そんな風に見えてしまう。
「や、やだ、どうして? ドアを開ける前まではこんなのなかった。ちゃんとそこの鏡で確認したんだから」
動揺して心臓がドキドキと高鳴っていった。
最初のコメントを投稿しよう!