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「と、とりあえず、落ち着こう。お茶でも入れてあげるから、莉帆は着替えてきなよ」
「う、うん」
愛が「暗いね」と言いながら電気をつけたから、私も立ち上がってふたりをドアの向こうの部屋へ招き入れようとした時、中に入るまでのフローリングの床に血のような雫がポタポタといくつか落ちているのが分かった。
「や、やだ。なんで? さっきまで何もなかったのに……」
一体、どういうこと? このほんの少しの時間で何が起こったの?
混乱して動揺する私を、愛が宥めるように肩をしっかりと抱いてくれて、「とりあえず、それ着替えよう」と繰り返した。
それでも、ドアを開けて中に入ったら血の海だったり……誰かの死体があったり……そんな恐怖に襲われて、私はドアの前から動けなくなった。それを察したのか、僚汰君が「開けるよ」と、その人懐こい笑顔でこちらを見て、私が頷くとドアを開けてくれた。
すると、対面式キッチンのカウンターと高めのカウンターテーブル、テレビの前に小さなソファとローテーブルがある、いつもの狭めのLDKが目に飛び込んできた。
私の不安はハズれて、そこはさっきまでと何も変わっていなかった……ように思う。
「き、着替えてくるね」
「手伝ってやろうか?」
いつもの口調でお調子者の僚汰君がふざけたけれど、今はとても普段のように何か返せる心境ではなく、私はスルーしたまま寝室の中に入った。
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