七・被害者は……?

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 結局、大内君も光之助君も笹森さんのことは知ってはいたけど、ほとんど話したことも無く、連絡先もバイト先も何も知らなかった。 「笹森沙絵…………どんな子だか分かる? 莉帆」 「バレー部のマネージャーの子は何人か顔を知っているけど、顔と名前は一致してないから、どの人なのかは分からない」 「そっかぁ。でも、クレッシェンドの公演にも来てくれているはずなんだけどね。まぁ、自分に関係ないお客さんはいちいち見てないからなぁ」  確かに、笹森沙絵という名前がアンケート用紙に書かれてあったのはよく覚えている。たぶん、新人公演からずっと、クレッシェンド内の有志で小さな公演をしても観に来てくれて、丁寧なアンケートを書いてくれていた。 「あっ‼ アンケート! 公演のアンケートに住所が書いてあるはずだよ。それでDMを送っていたじゃない? 笹森さんにも出したと思うよ」 「おっ、確かにそうだ!」 「莉帆、エライ! じゃ、今から部室に行くよ!」  勢いよく立ち上がった愛を私と僚汰君は座ったまま呆然と見上げた。 「なによ、行くったら行くの! 今、どんな状況か分かっている? 莉帆、一刻も早く被害者が誰でどんな状況なのか把握しないと。莉帆や莉帆の大事な桜野君の将来に関わることでしょう?」 「う、うん。もちろん行くよ」  冷静にこの状況を把握している愛についていこう、と思えた。  どうしても、私は自分の中の不安や恐怖に左右されすぎていて、何をすべきなのか頭が付いていかないようだ。  明らかに気乗りしないという感じだったけど、僚汰君も仕方が無さそうに立ち上がって、颯爽と大学へ向かう愛について歩いた。
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