八・見えてくること

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 笹森さんの住所は二つ先の駅からすぐのところにある、オートロック付きのマンションだった。  エントランスの自動扉の前で部屋番号を押して呼び出し音を鳴らすけれど、何度押しても応答しない。不在なのか居留守なのかは分からないけれど……。 「いないね」    私はそう言うと、諦めきれないという表情で、インターフォンの方を見続けている愛の肩をポンと叩いた。 「うーん、せっかく連絡先も住所も分かったのになぁ」  悔しそうに愛がもう一度チャイムを鳴らすけれど、やはり応答はしない。 「携番は分かったんだ、また電話してみようぜ」  収穫なしでガッカリして帰ろうとしたけれど、駐車場に見覚えのある車を見つけた。 「あのグレーのメタリックな車……滉也の車に似ている」 「えっ? 本当に?」 「マジか?」  思わずその車の方に駆け寄ると、フロントガラスからバッグミラーに交通安全のお守りがぶら下がっているのが見えた。これは一緒についているキラキラとしたキューブ型のストラップと二つ、確かに私があげた物だった。  助手席にも私が使う用に置いている、ハート形のクッションがある。 「やっぱりこれ、滉也の車だ……」 「えっ? じゃあ、やっぱり中にいるんじゃないか?」 「中に入る人について行けば、エントランスのオートロックは突破できるんじゃない?」  ふたりがまたマンションへ入ろうとしたけれど、私は「待って」と言って引き留めた。 「滉也のアパートって大学からは近いけど駅から遠いじゃない? だから、電車で出かけるときなんかは、この駅の近くの友達に車を置かせてもらっているって聞いたことがある。もしかしたら、それがここなのかも」  私と遠くに出かけるときは車だから、その友達の駐車場に行ったことはなかった。だけど、ここに車があるということは、その可能性は大きいと思った。
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