八・見えてくること

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「そう思うよね? 私もそう思うわ。で、桜野君が莉帆の家に行ったのは昨日の三時過ぎよね? 莉帆のゼミの友達だってマンションの前で会っているわけだし。そこから莉帆の記憶も無い。つまり、何かが起こってから、もう丸一日以上は経っているでしょう?」 「う、うん」 「それは、そうだな」 「だから、もう用事は終わって、連れの女の子と一緒に帰ってきたんじゃないかって、私は思うのよ。つまり、帰ってきたんだって」  帰ってきた……ってことは……?  どんどん私の思考が置いてきぼりになっていくのを感じていく。  愛がポンポンと先に進めるからなのか、それとも、私の脳が愛の考えていることを拒否したいからなのか。  恐らく後者だろう。  愛の言いたいことは、私の心には深く刺さって痛すぎる。 「つまり、莉帆ちゃんが聞いた電話の向こうにいた女っていうのは、笹森沙絵ってことか?」 「私の予想ではね。だって、少なくとも気軽に駐車場を貸してあげるくらいの仲良しではあるってことよね? 友達なのかそれ以上なのかは知らないけど。で、何らかのトラブルがあって、莉帆は記憶を失くすくらいだから、とにかく取り乱していたんじゃない? で、桜野君が笹森さんにヘルプを出したとか」 「ま、あり得なくはないよな」  ふたりは何となく盛り上がっているけれど、つまりは私が取り乱している間に滉也は笹森さんに連絡して、怪我した人を病院に連れて行くなり、死んでしまった人をどこかに隠しに行くなりしたってこと? そして、今はそれが終わって帰ってきた。 「つまりは、ここに……笹森さんの部屋に、二人ともいるってこと?」 「私はそう思うよ。いくらチャイムを鳴らしても、向こうからは私たちの姿が見えているものね。会う気が無ければ居留守を使うに決まっているよ」  愛は絶対にそうだと自信満々になってきているようで、満足そうに何度もうなずいている。
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