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「……光さん、そろそろ恥ずかしいです……」
「おわっと!ご、ごめん!」
奏多を抱きしめていた腕を直ぐに離して一歩下がる。
いつまでも続いてほしかった時間はあっさりと終わりを告げた。抱きしめていたことさえあまり意識していなかったのに、思い返してみればとんでもなく恥ずかしいことをした。ヤバい、調子に乗りすぎた。これは自分でもドン引く。今から全力で海まで駆け抜けて頭から突っ込みたい、そんな気分だ。
顔が熱いどころか、体中が熱い。思い出したみたいに汗が噴き出してきて、服をハタハタさせて仰がないと熱がこもって大変なことになる。さっきまで寒かったのに今は丁度いい。夏場だったらシャワー案件だった。
「光さん」
「な、なんだよ……」
恥ずかしくて、顔をまじまじと見れない。申し訳程度に横目で見ると、瞳は潤み切っているけど、涙は止まっていた。それとオレの熱気が伝わりすぎたのか、頬が赤く染まっている。それを見たせいで益々恥ずかしくなって目を逸らした。
「私、光さんは光さんだなって、安心しました」
「それ絶対いい意味で言ってないよな?」
「そんなことないですよ。何が言いたいのかいまいち分からないとことか、変なリアクションするところとか……」
「悪口は面と向かって言えば許されるわけじゃないからな」
「悪口なんかじゃないですよ。……全部光さんの良いところです」
全くそんな気はしないが、真正面から良いと言われると気恥しくなる。いや、本当に褒められてはいないんだけど。
「本当に良いところばっかりで……」
「お、おう」
これは素直に照れた。
「光さんは、私にありがとうもごめんなさいも言ってくれました。でも、言いたいのは私だって同じです。ううん、私の方がたくさん言いたいことがあります」
奏多は祈るように手を組んで、目を瞑って静かに微笑んだ。その姿にオレは、またしても見惚れるしかなかった。
「色々なところに付き合わせてごめんなさい。甘い物ばっかり選んじゃってごめんなさい。たくさんわがままを言ってごめんなさい」
目を瞑ったまま、静かに続ける。まるで今までの日々を振り返るみたいに、楽しそうで。
「初めて出会った日のことを、昨日のことのように覚えています。誰かのために頑張る姿が、目に焼き付いています。絶対に諦めないその背中がとても頼もしくて、差し伸べてくれる手が暖かくて……。私は、そんな光さんを忘れません。光さんの優しい笑顔を一生忘れません」
「おま、なんだよいきなり……急に言われたって……」
言葉に詰まる。視界がかすむ。さっきとは別の意味で泣きそうだ。
「人生の中の、たった半年ちょっとの時間ですが、私にとってもかけがえのない時間でした。私と見つけてくれて、ありがとうございました」
顔は見られなかった。……いや、見えなかった。眩し過ぎて、視界が霞んで、とてもじゃないが直視なんてできない。だけど、とても綺麗だと思った。
「……えへへ、言いたいこともっとあるのに、上手く言えないですね。もっと伝えたかったことがあったはずなのに……言葉にならないです」
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