しかしさよならが足りない!

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それからは、大したことは話していない。いつもとなにも変わらない下らない会話だ。奏多がわけの分からないことを言いだして、オレがそれを止めて、時折遥に怒られる。忘れかけていた日常を思い出すかのように会話は弾む。 気分も良くなれば食欲も出たらしく、遥はパンをしっかりと食べ切った。少しだけ顔色が良くなったのを感じで、だけど気にさせないように口にはしなかった。 そうこうしているうちに時間は経ったようで、廊下から話声や足音が聞こえるようになり、時計に目をやると、丁度登校時間と重なる。今日もまた、なんでもない平凡な日常が始まろうとしている。 「そろそろ出ましょうか」 名残惜しむように奏多は言う。無限に続くようにも思えていた時間も、終わりが見えてしまえば短く感じる。それが楽しいことであればあるほど、皮肉にも。 残された時間を有意義に使いたいところだけど、これと言ってやることは思い付かない。普通に授業に復帰した方が役立ちそうだが、キンタたちを置いてオレだけ呑気に日常を送るなんてできない。とりあえず、遥には休んでもらわないと。 「遥、部屋に戻って休め。奏多はその監視」 「分かりました!」 元気よく敬礼した奏多とは真逆に遥は不服そうだが、抵抗するつもりはないらしい。 「……休んだらすぐ戻るから」 「ごゆっくり」 奏多に手を引かれて食堂を去っていく。遥は最後までオレの方を訝し気に見ていたが、そんなに信用ならないだろうか。無防備な隼人とオレが二人きりになるからって別に何も……信用ならんな。 テーブルに置き去りにされたゴミをパパパっとまとめ、出入り口付近に設置されているゴミ箱に突っ込む。クラスメイトに見つかって色々聞かれるのも面倒だし、オレも早く保健室に戻ろう。 少し前までは何もかもが真新しく見えていた景色が、今になってはなんだか懐かしい。一つ一つを忘れないように目に焼き付け、ゆっくりと廊下を歩く。
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