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夢を見ていた。夢だとはっきりと分かるくらい、夢のある夢を。
オレがいて、隼人がいて、遥がいて、奏多がいる。どこかも分からない場所で、四人で談笑している。何を話しているのかは、分からない。ただ無声映画みたいに、音が聞こえないからだ。
奏多は何かを楽しそうに話して、それを隣で優しく微笑む遥。我関せずと手元に置いた本を眺めてはページをめくる隼人。
こんな未来、もう来ないというのに。オレがこの場にいられることなんて、もうないというのに。
望んでしまう。手を伸ばしたくなってしまう。
声にしてしまえばいいんだろう。望んでしまえばいいんだろう。だけど望むということは、もう片方を捨てるということだ。
天秤にはかけられない。かけたら余計に迷ってしまう。それなら言われるがままの方が、考えずに、気づかずに済むだろう。
こんなことを選ばされるくらいなら、選ばない方がいい。どちらしか選べないのなら、自分の意思で決めたくない。
『もしかして、こっちの世界に残りたいの?』
急に、声が聞こえた。この日常にはあるはずのない声。この場面にはいるはずのない、黒髪の男の子。
時間が止められているかのように、全員の動きが止まった。
『……ゼロ』
『僕くらいになると夢の中でも来れちゃうからね。驚いた?』
驚いたというよりかは、本当にプライバシーがないのが癪に障った。
『それよりさ、この世界に残りたいって思ってるの?』
考えていたことも、全て筒抜けか。
『……思っちゃ悪いかよ』
『悪いとは一言も言っていないさ。それより僕は嬉しいんだよ、この世界を気に入ってくれたってことでしょ?』
まぁそうなんだけど、こいつの前では素直に頷きたくないな。
『……僕に望まないの?』
真剣な表情で、ゼロは言う。
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