しかしさよならが足りない!

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― 「……る。……かる。ちょっと、光」 名前を呼ばれた気がする。なんなら肩を揺すられている気がする。半分寝惚けたまま目を開けると、金色がなびいている。……そしてなんだか、とても怖い顔も見える。 「い、いやあの別に寝てたとかそういうことは全然ないというかたまたま長い瞬きをしていただであって……」 「あんたはそうやってすぐに……まぁいいけど」 呆れたようにため息をついて、背もたれも何もない椅子を取り出して座り、隣に並ぶ。 ……っぶねー、完全に寝落ちしてた。何か保健室暗くなってるし、何時間寝てたんだよ。月明りが差し込んでるおかげで、辺りは良く見えるけど。 いつの間に寝たんだっけか。午前中は起きてて、昼飯食った後あたりだな、確か。心地よくなって気が付いたら遥の顔が目の前にあった。 「というかあんた、その椅子どうしたのよ」 「あぁ、これか」 オレがどうしてこうも快眠できたかというと、別に隼人の布団にお邪魔していたからではない。もしそんなことしていたら逆にオレは目を覚まさなかっただろう。 オレが座る椅子は、肘掛けも、背もたれもしっかりある。キャンプで使うような折りたたみ式の椅子だ。これが以外と座り心地がよくてつい。 「午前中はオレもその椅子使ってたんだけど座ってるだけで肩凝るし。だから昼休み中西のところに挨拶行った時、ついでに椅子の話したら貸してくれた」 「なんで学校にこんなの持ってきてるのよ……」 「『ここは学校じゃない……キャンプ場だ!』とかなんとか言ってたぞ」 「あの人なんで教師になれたのかしら……」 遥はため息をつきながら、頭痛でもするかのように頭を抑えた。まぁそのことについてはオレも全く同意見だ。むしろ初対面の時からすら思っていた。だけど中西が教師なれたことより、教師を続けている方がオレにとっては疑問だ。それもまた、大した理由はないだろうけど。 「……まぁそんなのが一人くらいいても、良いとは思うけどな」 「……あんた年上好きなの?」 ジト目で睨まれる。 「ば、ばっか何言ってんだよ。オレは断然年下だ、下であればあるほど燃える。いや、萌える」 「気持ち悪いから離れて、社会から」 「ひでぇ!誘導尋問だ!」 くそっ!年上好きという誤解を解こうとしたせいで余計な傷口を抉ってしまった! 「何も誘導してないから……。勝手に墓穴掘っただけでしょ。埋めてあげようかしら?」 「……結構です」 その笑顔が怖い。遥ならやりかねんオーラがあるからな……。
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