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それから、遥の未来の花嫁像を延々と聞かされた。ウエディングドレスはこれとこれとで悩んでるんだけどどっちがいい?とか、結婚式は海が見える場所とやっぱりみんなが集まりやすい方どっちがいいかな?とか。あまりに高すぎる妄想力にお子様なオレは、「どっちもいいと思うよ」と、デート中にどっちの服が似合うか聞かれた彼氏並みの返答をすることしかできなかった。ウエディングドレスの種類の話なんかされても何も分かんねーよ。
それでも遥は随分と楽しそうで、きっと今までため込んでいた妄想をベラベラとしゃべり続けた。
「でね、老後はやっぱり人里離れた場所がいいと思うの。二人だけの時間をのんびり……って、あたしの話はいいのよ」
いいのよ、ってレベルじゃないくらい話していたけどな。人生設計の終盤まで聞かされたのに急に我に返るなって。逆に良く戻って来られたな。
「光はどうするの?」
「……どうするって何が?」
とぼけてみるが、それを咎めるように睨まれる。
「……本当にこのまま何もしないつもり?」
「しないも何も、だいたいそんなことしている場合じゃ……」
「光、まじめに答えて」
そう言った遥の表情は、いつになく真剣だった。冗談を言って受け流すことも、はぐらかすことも、きっと許してはくれない。だからオレは、ゆっくりと息を吐いた。
「……なんでそんなこと聞くんだ?」
「単なる好奇心じゃないわ。時間がないのは分かってる、別れが余計に辛くなるのも分かってる。あんたがその気持ちを隠し通せば、今まで通りのままで、仲良くいられる。その気持ちは嘘だったと押し殺すことだってできる。気持ちを伝えれば、お互いに傷つくだけかもしれない。それでもあたしは……光に後悔のない選択をしてほしい。この世界に来れてよかったと思えるようなことを、一つでも増やしてほしい。帰らなくちゃいけないなら、未練なんて残してほしくない」
……そんなことを、言われた。真っ直ぐと、オレの目を見て。
遥としかできない恋バナで盛り上がるとか、そういう話じゃなかった。遥はただ真剣に、オレのことを考えて言ってくれている。こんなにオレのことを考えてくれている親友に、はぐらかすことはできなかった。
「オレは……」
言葉を探した。自分がどうしたいのか、本当はどうなりたいのか、その答えとなる言葉を探した。
うららさんと約束した、この気持ちを伝えることを。例え時間がどれだけかかろうとも。だけどやっぱりこの約束は理不尽だ。伝えることができる時間なんて、あとたったの四日しかないのに。
この気持ちを、オレは……。
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