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「あぁもう!いつまで悩んでんのよ!じれったい!」
痺れを切らしたのは遥だった。
「えぇ……、真剣に聞かれたから真剣に答えようと今真剣に考えてたんじゃん」
「真剣真剣うるさい!結局あんたはね、勇気がないだけなのよ!中途半端に頭が回るから余計なことばかりごちゃごちゃ考えて、ずっと足踏みしているだけ!……踏み出さなきゃ、何も変わらないの」
……まぁ、十年も足踏み状態の遥に言われたくはないが、全く持ってその通りだ。つまらないことばかり考えて、前に進めない。いつだってそうだ。答えを先延ばしにして、うやむやにして、時間が解決してくれることを期待して……何もしない。誰も傷つけない代わりに、何も得られない。言い訳ばかり考えて、言葉ばかりこねくり回して、そうじゃないだろ。
……結局オレは、奏多に振られるのが怖いだけだ。
「あたしは別に告白するのを強要する気はない。ただ、いつまでも中途半端でいるのはやめなさい。言うなら言う、言わないなら言わない。それすら決められないやつは、この先きっと何も選べない。一度ちゃんと話してみなさいよ、あんたが真面目に向き合わないから答えを出すにも出せないのよ」
話そうと思えば、いくらでも話す時間はあった。それなのに目の前のことに必死になっている振りをして、あえて深くは話さなかった。向き合おうとしなかったのはオレの方だ。
ただ一言……伝えるかどうかを、こんなにも悩んでいる。
「……オレはもっと知りたい、奏多のことを。もっと二人で話がしたい。……それだけは言える」
それでもこんな曖昧なことしか言えないオレを、遥は鼻で笑った。
「なら行って話してきなさいよ。それで、答えを決めればいいじゃない。今ちょうどあんたの部屋にいるから」
「そうするよ。……え、なんで?」
なんで勝手に人の部屋にいるんだよ。
「隼人くんのベッドの方が落ち着て寝られるからに決まってるでしょ?」
「胸張って言えることじゃない」
というか、普通に犯罪じゃねーか。隼人もとっとと起きてこのストーカーから離れた方がいいぞ。
「いいから行く!善は急げよ!そしてどうなったか教えなさい!」
「結局好奇心じゃねーか」
ツッコミを入れつつ、立ち上がる。凝り固まった体を一度伸ばす。長丁場になるのか、手短に終わるのか、オレの裁量次第だろうけど、まぁ真面目に向き合うか。
「遥、この椅子使っていいぞ。しばらく貸してくれるって言ってたし」
「正直助かるわ。こっちのはいい加減疲れるし」
遥はさっそく立ち上がり、オレの空けた椅子にどっかりと座った。座り心地や背もたれの具合を、体を使って確認して、どうやらお気に召したらしい。
「あの先生もたまにはいい仕事するのね」
「教師としては仕事してないけどな」
最後にもう一回ストレッチをして、よし。体は思いのほか調子が良く、なんならちょっと体を動かしたいくらいだ。
仕切り用のカーテンを開ける。窓から差し込む月明りが一層明るく照らした。
「……遥、あんまり無理すんなよ。呼んでくれれば直ぐに変わるから」
「ゆっくり休ませてもらったから大丈夫よ。あたしのことはいいから早く行きなさい」
遥は笑った。何に対し、何を込めて笑ったのかは、考えないことにした。
「じゃあ、また明日」
「うん、また明日」
別れの言葉を交わし、オレは二人に背を向けて歩き出した。
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