74人が本棚に入れています
本棚に追加
胸が苦しい。苦し過ぎて、その苦しみから逃れようと、オレも月を見上げた。
「……帰るよ」
自分から出た言葉とは思えないほど、酷く耳に残った。それでも、言っておかなくちゃいけないと思った。これから先の世界にオレはいないことを。
「全部無事に終わったら帰るよ」
「こっちには残れないんですか?」
ゼロと話をしていてよかった。その前にこんなことを聞かれていたら躊躇ってしまったに違いない。
「残れないんだってさ、こっちに。だからこっちで全部ちゃんと終わらせる……それがせめてもの責任だ」
「責任って……光さんはただ巻き込まれただけじゃないですか」
誰に向けて言ったわけでもなく、奏多は呟いた。
確かにそうなんけど、今は被害者面をする気はない。誰かを守れる力なんて何もないけど、それでも守りたいと思える人ができた。そういうのを全部ほったらかしにして帰るなんて無責任なこと、オレにはできない。
「みんなと楽しく過ごした毎日の責任だ。オレはこの日々に何の後悔もない。だからちゃんと責任を取りたいんだ」
「光さんの言う責任ってなんですか?そんな都合のいい言葉で誤魔化さないでください」
随分ストレートに言われてしまった。確かに自分でも都合の良い言い方をしていると思う。本当は責任なんて言葉で片付けられてしまう程、心の中は綺麗で穏やかでも何でもないし、単純じゃない。
「オレは……」
言いたいことはたくさんある。話したいことがたくさんある。これから先も、ずっと先も、みんなと過ごせたらどれだけ楽しいだろうかと考える。だけどそうじゃない、そうじゃなんだ。こっちに残れないことは分かってる、望めないことも分かってる。戦うのは怖いし、別れるのは辛い。それでも、せめてもの、願いがある。
最初のコメントを投稿しよう!