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「……月が綺麗だ」
「こんな時に、何……言ってるん、ですか」
「奏多といると、本当にそう思える。奏多といる時はいつも月が綺麗に見えてさ、世界が輝いて見えるんだ。そういう時間を、奏多がくれたんだ。だから、例え住む世界が違っても、オレは月を見上げて奏多を思い出すよ」
「意味、分かんないです……」
胸の辺りをぎゅっと掴んで、泣き続ける奏多を、オレはただ抱きしめていた。
こんな言い方しかできなくてごめん。でも、この想いは伝わらなくていい。伝えたらきっとまた、悲しくさせるだけだから。
それに、たった一言すら言えなかった男なんか、とっとと忘れてくれ。オレは未練がましく、想い続けるけどさ。
それでも……今だけは一緒にいさせてほしい。今だけは許してほしい。
言えなかった分、強く抱きしめる。それくらいは見逃してほしい。
寒かったはずなのに、暖かい。辛いはずなのに、たまらなく幸せだ。こんな時間がずっと続けばいいのに、二人だけの時間がこれから先も続けばいいのに。願わずにはいられない。
伝わってほしくないのに、伝わっていてほしい。言葉にはできないのに、分かってほしい。そんな無茶なことを考え、一人、ぼやけきった夜空を見上げて、ただ思う。
好きだ、と。
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